立場の生態系では安全と危険の区別もない--『幻影からの脱出』を書いた安冨 歩氏(東京大学東洋文化研究所教授)に聞く

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東大はそのシステムがそれだけきちんと作動していて、私みたいなのもいるが、変な人はほとんど入ってこない。東大は専門家集団の再生産機能を担っている。権力に反対する人たちも養成し、「知識人による非知識人の支配」という体制を再生産するようにもできている。

── 一方で、学問には真理の探求という役割があるはずです。

真理の探究は人間にとって根源的な喜びの一つ。誰でも知ることで喜びを感じるもので、人間社会を支える大事な力だ。ただし、それによって生み出される知識は、専門家が独占している知識とは本来関係がない。いわば、そのアカデミズムから盗み取って作られているのが、専門家の知識体系だ。だから、すごくつまらない。

──ジョージ・オーウェルの小説『1984』にも似た表現が。

彼はダブルシンク(二重思考)やニュースピーク(新語法)といった言葉を使った。現代日本でいえば、彼が表現したかったのは東大話法だろう。東大話法的な空間で生み出されるのは言い訳の体系にすぎないので、価値を生まない。

──東大話法を支えるのが、日本人に根強い「立場主義」なのですか。

日本社会は人間社会ではない。立場社会、それぞれの立場が相互作用をしている。個々の人間はその素材にすぎず、立場の埋め草みたいなものだ。立場に応じた振る舞いを強要され、振る舞う気のない人は社会的な諸関係から排除される。そして立場がなくなったら、もう終わり。

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