日清「バカやろう」CMの謝罪騒動が示す皮肉 ネットとお茶の間の反応は大きく違った

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ネット上で公開されている動画は、基本的には興味がある人が再生して閲覧するという選択権があるのに対して、テレビCMはある意味、見たくない人にも強制的に届いてしまう受け身型の強力な広告手段です。

一度、日清カップヌードルの「バカやろう」テレビCMで、矢口真里さんの登場シーンにイラッときた人達は、その後、そのテレビCMが流れる度にイライラを募らせることになります。

実際に今回のテレビCMがどれぐらい放送されていたかはわかりませんが、平日にあまりテレビを見ない私でも何度か遭遇した記憶がありますから、一日家でテレビを見ている主婦や年配の人々からすると相当の回数を目にしていたとしてもおかしくありません。

ここから先はあくまで私の推測ですが、通常のテレビ番組ですら矢口真里さんの出演によってある程度のクレームが入っていたようですから、テレビCM放送後、日清食品がある程度予想していた範囲のクレームは入ってきていたはずです。

クレームをつけやすい時代

昔はテレビCMを見て不快だと思っても、そもそも企業の電話番号やメールアドレスがわからず、お茶の間でそのまま愚痴って終わっていたと思いますが、今はスマホで軽く検索すればすぐに企業の電話番号やメールアドレスがわかります。クレームを非常につけやすい時代になっていますし、企業も消費者のクレームにはかなり敏感になっています。

もちろん、クレーム対応をする電話センターのオペレーターは、クレームの電話をある程度傾聴し、今後の対応を検討するなどの無難な回答をして電話を切ることになります。今回のようなテレビCMであれば、ある程度対応方針も決まっていたはず。ただ、問題になるのはクレーム電話をオペレーターが対応し終わっても、テレビCMは流れ続けている点です。当然、クレームをした人は電話をしたのに対応しない企業側の姿勢にさらにストレスを募らせることになります。

「いまだ!バカやろう!」は結局、大きな波紋を呼んだ

そういう意味で、テレビCMを流せば流すほどクレームをした人の怒りは大きくなっていたはずで、ネット上での話題とは逆に、クレーム電話の数が日に日に増え、クレームする人のイライラが日に日に高まっていた可能性があるわけです。

そもそも世の中に100%の人が賛成してくれる表現というのは存在しません。「未来の子供を大事に」といえば「老人をおざなりにするな」と反論されます。「女性がすばらしい」と「男性がすばらしい」という表現はそれぞれ同意と反論を生むことになります。

テレビCMは「マス」に届けることができる広告手段で、見たくない人にも届いてしまうというデメリットが実はあります。今回の日清のテレビCMは「若い世代にエールを贈ることが主旨」だったそうですが、おそらくはメインターゲットではない人たちの神経を逆なでしすぎた結果となり、中止に至ったのではないかと想像できます。

一般的には「テレビCMが視聴者に届きにくくなった」と業界関係者が困っている昨今で、ある意味、狙ったターゲットとは違う層に届きすぎてしまったことによって放送中止になったとしたら、実に皮肉な出来事ではあるといえます。

いずれにしても、今回のテレビCMはあくまで第一弾という位置づけのようですし、今回の騒動を通じて日清食品の関係者の方々は、あらためてもっと「バカやろう」というエールを届けるべき人達に届ける必然性を感じておられるのではないかと思いますので。

今回の騒動から学んだことを上手く反映されて、我々の予想を上回るようなカップヌードルらしい攻めの第二弾CMを公開される日を、期待したいと思います。

徳力 基彦 noteプロデューサー、ブロガー

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とくりき もとひこ / Motohiko Tokuriki

NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、アジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。代表取締役社長や取締役CMOを歴任し、現在はアンバサダープログラムのアンバサダーとして、ソーシャルメディアの企業活用についての啓発活動を担当。note株式会社では、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるブログやソーシャルメディアの活用についてのサポートを行っている。
個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「顧客視点の企業戦略」、「アルファブロガー」等がある。

 

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