東京電力の「社債市場復帰」は高いハードルだ 持ち株会社に移行も、経営安定化へ難題山積

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ここで大きな鍵を握るのが、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働、公募社債市場への復帰、JERAへの既存火力発電の移管の3つの課題だ。しかもそれら三つは相互に絡まり合っている。東電グループでは最近の収益力改善を支えに、「今年度の秋から冬にも社債発行再開を実現したい」(廣瀬・東京電力ホールディングス社長)という。

もっとも、東電の持株会社が保有する最大の資産は原子力発電であるため、柏崎刈羽原発の再稼働のメドが来年春までに立つことが、自律的経営の前提条件になる。再稼働が実現しない場合、持ち株会社のめぼしい収入は、水力発電の売り上げおよび傘下の3子会社からの配当くらいしかない。一方、廃炉や賠償を担うため、持ち株会社が抱える潜在的なコスト負担は今後も大きい。

持ち株会社の財務弱く、楽観視できない

このように持ち株会社の財務基盤が脆弱であるため、東電グループでは送配電子会社が主体となる形での公募社債の発行再開を検討している模様だ。これについて、格付会社スタンダード&プアーズの柴田宏樹アナリストは、「柏崎刈羽再稼働の遅れなどで業績が厳しくなったときに、持ち株会社が安定した収益基盤を持つ送配電子会社からの配当吸い上げを増やすことにならないかを注視している」という。「廃炉や賠償に関する費用は収益やキャッシュフローを長期にわたって圧迫し続ける。これが(既発債を含めての)格付のアップサイド(上方修正)を制約する原因になる」とも柴田氏は説明する。

持ち株会社の収益が安定しないようだと、燃料・火力発電子会社の内部留保を持ち株会社に吸い上げる圧力も強まる可能性がある。これ自体も燃料・火力発電会社の経営の自律性を阻害することになりかねないため、中部電力がJERAへの既存火力発電所統合を決断するうえでのハードルになる。

資材や人件費などの削減努力や、原油やLNG調達コストの低下によって、東電グループの足元の収益はしっかりしている。しかし、「課題は山積しており、社債市場復帰を含めて楽観できる状況にない」と原賠機構幹部は指摘する。前2016年3月期の連結営業利益は空前の高水準に達したとみられるが、燃料価格下落分の電気料金転嫁までの一時的なタイムラグ益が主因で、決して実力値とは言えない。

経営評価のクリアは簡単でないうえ、目先の好環境に安住して改革が足踏みするようだと、競合他社の火力発電所が相次いで完成する10年後に大きな痛手を負うことになりかねない。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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