医薬品、医療機器メーカーが挑むオペレーション改革の今
事例講演
「二極化する医療業界に物流をどう対応させていくか」
「物流会社の視点で、医薬品業界の物流について語る」と前置きして話を始めた天野実氏は、同社が「病院事業に強く、医療機器の滅菌サービスや病院内物流サービスなども行っている」ことを説明。「ジェネリック医薬品の普及による低価格化と、医療や医薬品の高度化という二極化が進んでいて、医薬品は年間600アイテムくらい増えている」とした。そのため「医薬品の保管スペースも拡張が必要であり、一方で検品などの作業も増えているため、物流センターも拡張性を考えた設計をしなければならない」と指摘した。さらに「これから増えるとみられる“都市型調剤薬局”と従来型の“門前薬局”とでは、物流のあり方が違う。医薬品であるから当然、セキュリティやトレーサビリティなども重要になる」と語った。
こうしたことを前提に同社は、「経済性と高品質な運用を両立させ、医療物流の特性を鑑みた独自の運営と最新のシステムをマッチングさせた、高付加価値メディカル物流センターを目指す」と表明。「設備投資は従来の2分の1、移設や増設が容易な最新の物流設備と運用で需要の変化に対応可能、アイテム増加や構成変化に対する拡張性と柔軟性を確保できる」などの特徴を列挙した。
ここで、この物流センターを共同で構築した豊田自動織機の熊倉隆氏が登壇。同社が開発したマテハン(マテリアルハンドリング)機器などについて説明した。それによると「病院や調剤薬局などのオーダーの特徴や物量に合わせ、最適なピッキング方式をフレキシブルに選択できる」フレキシブルピッキングシステムを開発。そのほか、トヨタの考えるシステム構築方針を紹介し、実際の製品を解説した。
この後、再び天野氏が登壇し、物流センター全体の見える化の仕組みやオリジナルのKPI分析システムなどを開発していること、従業員教育にも力を入れていること、顧客のBCP対策をバックアップしていることなどを説明。最後に同社が現在、インドで医療材料データベースの構築やそれを用いた物流ネットワークの構築などに取り組んでいることも紹介して、講演を終えた。
特別講演Ⅱ
「収益性の向上に貢献するサプライチェーン改革」
冒頭で長尾氏は、血液検査や尿検査に必要な機器や試薬、ソフトウエアを開発、製造、販売しているシスメックスの概要を紹介し、「売り上げの約82%が海外」であることを強調。「SCM(サプライチェーンマネジメント)で稼ぎ、収益性の向上に貢献するために、サプライチェーン改革が必要」であり、「2011年に全体最適なグローバルロジスティクス構造の再構築、プロセス改革によるサプライチェーンリードタイム短縮を基本にした『SCMグランドデザイン』を策定し、改革に着手した」と語った。
同社はまず、各地域の在庫バランスについて調査し、「売り上げの約82%を占める海外各地域の在庫が薄いことが判明。ビジネス実態に合った在庫バランスを実現するため、各地域統括会社からの注文に応じて出荷する“プル型供給”から、3カ月先を見据えた計画的な“プッシュ型供給”に転換した。そして、市場の近くに適正在庫を保有する施策などを実施した結果、ビジネス実態に合った在庫バランスを実現することができた」という。
また日本国内では、「自社工場内に自前のDC(物流センター)を新設し、生産から物流まで一気通貫の仕組みを構築。海外向け機器の出荷フローも改変し、供給リードタイムの短縮、コンテナの積載率向上などを実現。海外向けフォワーダー(貨物利用運送業者)も2社に集約し、さらに梱包設計・作業の見直しや梱包機能の移管なども実施し、梱包資材の廃棄量を年間約20トン少なくし、梱包費用を約10%削減することに成功した」と明かした。
こうした一連の改革を振り返った長尾氏は、「事業構造、環境変化へのスピーディな適応が必要であり、チャレンジングな目標を設定することや、納得と共感を得るための粘り強い取り組み、継続的な改革などが重要」と総括した。