3000円のビールは、なぜ一晩で完売したのか 持たざる者の「逆を突く」戦略とは?

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「どんどん個性を出していったのです。実はメルマガも『暑くなってきたので、夏野菜とビールはいかがですか?』といった無難な内容だと、まったく反応がなかった。そこで、大まじめにバカなことをして、当時は数少なかったファンに喜んでもらおう、と考えたんですね」

ビール300「万」円引きで新規顧客獲得

そこで書いたメルマガのタイトルが『驚異の300万円引き!』。300円でなく300「万」円だ。1日1本飲むと、休肝日も勘定に入れると月に1ケース(24本)くらいになるだろうか。夫婦で月2ケースを50年間続けると、ざっと750万円になる。そこで「450万円お支払いいただけば50年間ずっとビールをお届けします! お客様が北海道でも沖縄でも、酒屋らしい集金袋を持っておカネを受け取りに参上します!」と書いたのだ。申し込みはゼロだったが、ネット上で大いにウケ、新規ファン獲得に効果があったという。

その後は、ファンとの距離を縮めるため、ビアバーで社員とファンが触れ合う「宴」を開催、チケットがすぐ完売してしまうほどファンが増えた時期に、ネット上で新製品発表に合わせ、飲み会を開催した。

ローソンで大ヒットした「僕ビール、君ビール。」

「『僕ビール、君ビール。』というローソン共同開発製品の発売時に打った施策です。ユーストリームなどで中継しながらファンと乾杯しました。このビールは、缶にかえるの絵がデザインしてあります。そこで『かえる捕獲大作戦』を行いました。ファンから『山梨県のローソンで”僕ビール、君ビール。”を買った』という報告が入ると、選挙速報のように、背後の日本地図の山梨県の部分に花を飾るんです」

このプロモーションもあたった。「僕ビール、君ビール。」は、ローソン担当者も驚くのほどの大きな反響を呼んだ。

これらの成功を受け、いまや社員も、ありきたりな施策があると「それはウチらしくない」と言うまでに思考回路が変わっている。

「非常識だと思われてもいい。ネットでの販売も、クラフトビールも、ここ20年で根付いたもの。逆に、今までの常識通りに働いていたら、弊社はとっくの昔になくなっていたでしょう」

(写真提供:ヤッホーブルーイング)

夏目 幸明 経済ジャーナリスト

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なつめ ゆきあき / Yukiaki Natsume

経済ジャーナリスト。早稲田大学卒業後、広告代理店勤務を経て現職。「技術、マーケティング、マネジメントが見えれば企業が見える」を掲げ、ヒット商品の開発者、起業家、大手企業の社長などを精力的に取材。『週刊現代』の「社長の風景」は長期にわたる人気連載になっており、ほか『ダイヤモンドオンライン』の「ヒット商品開発の舞台裏」等も連載。著書は『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』(井手社長の口述を筆記)ほか多数。

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