最強トヨタを率いる「御曹司」が持つ本当の力 豊田章男はなぜ色眼鏡で見られてしまうのか

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「もっといいクルマをつくろうよ」「バッターボックスに立とう」「工業製品で“愛”が付くのは車だけ。これから先も愛車と言っていただけるようにすることが大事」――。豊田社長から発せられるのは具体性に欠ける綺麗ごとがほとんど。一般的な経営者が語るような、販売台数や利益、ROEなどの数値で経営は語らない。

豊田社長はハンドルを握ってテストドライバー役を務め、自動車レースに出場する。ファッション誌やバラエティ番組に登場し、タレントやスポーツ選手とも対話する。およそ経済界のトップに君臨する大企業の経営者像からははみ出ている。「豊田社長は目立ちたがり?」「周囲はイエスマンばかり?」などという先入観や噂などが先行する面もある。

赤字から経営を立て直し、純利益2兆円超へ導く

だが、豊田社長は2009年3月期の赤字決算から経営を立て直し、東日本大震災、タイの洪水、中国での不買運動と販売店の焼き討ちなど、数々の危機に直面しそれを乗り越えてきた。

2014年3月期にはグローバル販売台数1000万台乗せと最高益更新を達成。2015年3月期には日本企業として未踏となる純利益2兆円超えを果たした。2016年3月期は、グループ部品会社の事故による国内工場の1週間稼働停止や為替の反転などマイナス要素があるため着地が見通せない。それでも、日本企業でダントツ、世界の自動車業界でもトップの利益水準は揺るがない。

近年の好業績が2012年後半からの円安の追い風を受け、「運に恵まれた」という評価がある一方で、「トヨタのクルマづくりやレクサスのブランド戦略は変わった」「かつての急拡大路線のほうに無理があった」などという高評価もトヨタ内外から聞こえてきている。

週刊東洋経済は4月9日号(4日発売)で『経営者 豊田章男』を特集。経済誌で初となる14ページにわたる独占インタビューで豊田章男社長の本音に迫ったほか、その経営手腕を徹底分析した。経営トップへの道が半ば約束されてきた人生を送り、その筋書きどおりにトヨタ社長に就任した豊田社長。たたき上げ社長にも、出世競争を勝ち抜いたサラリーマン社長にも見られない独特な経営者の本懐にこそ、今のトヨタ、引いては日本をけん引する世界一の自動車メーカーを読み解く最大のヒントが詰まっている。
 

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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