凍土壁建設、被曝15ミリシーベルトとの闘い 多大な代償を伴い東電の汚染水対策が前進

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2年以上にわたる凍土壁の建設に際しては、延べ27万4000人・日(1日平均約520人)という膨大なマンパワーが投入された。東電や鹿島では作業に伴う放射線被曝を抑えるために、作業箇所の除染や遮蔽、作業時間の短縮などの対策を徹底してきたという。それでも被曝量が大きな値になったことが判明した。

夜を徹しての冷却材の充填作業(写真提供:東京電力) 

3月31日の記者会見での鹿島の浅村忠文・福島第一凍土遮水壁工事事務所現場代理人の説明によれば、施工に従事した作業員は約2200人。従事した期間はさまざまだが、1人当たりの平均被ばく量は15.3ミリシーベルトだったという。

国の規則で定められた被ばく線量の限度は年間50ミリシーベルト、5年間では合計100ミリシーベルトだが、鹿島が管理目標とする年間38ミリシーベルトに達したことで2年間に21人が作業現場からの離脱を余儀なくされた。この中には、放射線管理が適切さを欠いたことで、2年間累計で66ミリシーベルトの被ばくをした作業員もいた。

福島第一では現在の作業員1人当たりの年平均被曝線量は約6ミリシーベルト前後。単純な比較はできないとはいえ、原子炉建屋近くでの凍土壁の建設工事がいかに被曝リスクを伴うものであったかがわかる。

途方もない年月がかかる廃炉作業

汚染水の発生抑制に一定のメドを付けるとともに、福島第一では今後、使用済み燃料プールからの燃料の取り出し、「燃料デブリ」と呼ばれるメルトダウン(炉心溶融)した燃料の位置や性状の確認など、「廃炉に向けた作業の核心に入っていく」(東電の増田尚宏・常務執行役福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデント)。その際、「被曝との闘いになる」と増田氏は説明する。

被曝量を抑えつつ作業員を確保するためにも、東電では元請け企業に対して複数年の業務量を保証することで、作業員ごとに高線量下での作業とそうでない作業を組み合わせるなどの対策を講じるように働きかけているともいう。構内でのコンビニエンスストアの開店やシャワー室の設置、全面マスク装着エリアの縮小など、職場環境の改善も進みつつある。

ただ、「廃炉作業を山に例えると1合目は何とか越えられたかなというところ」(2月3日の小野所長インタビュー)。40年ともそれ以上とも言われる廃炉作業の行く手には難題が待ち構えている。

(追加情報)
記事掲載後、4月4日の東京電力の定例会見で、鹿島からの情報として、陸側遮水壁の工事に関わり、約2年間で50ミリシーベルト以上被曝した作業員数116人、最大被曝量は75.51ミリシーベルトであるとの説明があった。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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