「偽善者でもいい!」伊那食品のブレない哲学 達人経営者が極めた掃除哲学と凡事継続

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セミナーの最後に、掃除をしたら業績が良くなりますか、と日頃の疑問を尋ねてみました。お2人とも、会社の業績が厳しいときに、黙々と掃除をすることで会社を軌道に乗せられた実績があります。でもお2人は異口同音に「掃除をしたからと言って、業績が良くなるという、そんな単純なものではない」と言われました。

鍵山相談役は、イエローハット創業時から、働く環境をキレイにしてきました。人手不足で、転職を繰り返してきた社員を多く採用した時代です。彼らの荒んだ気持ちを、すこしでも穏やかにしようと心がけたのです。でも最初の10年は社員の変化もなく、迷いながら独り掃除を続けたと言います。すると12年目ごろから社員が自主的に掃除や洗車をするようになりました。

さらに10年経つと、ほとんどの社員が朝早くから、会社だけでなく近隣の道路も掃除し始めました。さらに10年後、マスコミの取材も増加、韓国やドイツからも取材が来るようになりました。中国の格言に「10年偉大なり、20年畏るべし、30年にして歴史なる」とありますが、まさにその通り。掃除をして、キレイになって、それで直ぐに、ハイ業績も上がりました、という訳ではない。10年、20年という長い時間の積み重ねが必要、と言われます

何事も続けていくことが大事と「凡事継続」を標榜

続いて、塚越会長がこうつけ加えられました。

「経営ノウハウ、戦術、戦略、全て必要です。でも掃除は、もっと根源的な、人間的な精神を構築するために大切なものだと思います。人の優しさ、思いやり、そういった人間として大切なものを涵養するのが掃除です」

鍵山相談役は、掃除も3年ぐらいでマンネリになるが、昨日より今日、今日より明日という考えで取り組む「凡事徹底」を強調されました。塚越会長は、掃除に限らず何事も続けていくことが大事と「凡事継続」を標榜されました。長年掃除を続けられたお二方ならではの、重い言葉でした。

この話は実は経営だけではありません。家庭も同じです。

しっかりした家は、玄関の靴がそろっています。トイレがキレイです。家の中がキレイに片付いています。一方、テレビで事件のあった家が写し出されることがあります。汚い。ベランダはゴミの山。根源的なところが狂っているようです。

でもただ単に、キレイになればよいというものでもありません。キレイになったという結果ではなく、キレイにするという気持ち、行為、プロセスが大事なのです。会社も家庭も同じです。自分の手で掃除を継続してすることで、会社も家庭も元気になると思います。お掃除ロボットでは、いくらキレイになっても元気になりませんよ。
 

竹原 信夫 日本一明るい経済新聞 編集長

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たけはら のぶお / Nobuo Takehara

有限会社産業情報化新聞社代表取締役(日本一明るい経済新聞編集長)。1971年3月、関西大学社会学部マスコミ学科卒、同年4月にフジサンケイグループの日本工業新聞社に入社。その後、大阪で中小企業担当、浜松支局記者などを経て、大阪で繊維、鉄鋼、化学、財界、金融などを担当。1990年4月大阪経済部次長(デスク)、1997年2月から2000年10月末まで大阪経済部長。2001年1月に独立、産業情報化新聞社代表に。年間約500人の中小企業経営者に取材、月刊紙・日本一明るい経済新聞を発行している。
 

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