クラウドは、どうマーケティングを変えるか 米国のイベントで明らかになった「最先端」

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マーケティング・クラウドの位置づけについて、アドビはビジネス革新の第三波であると説明する。

第一波はバックオフィスの効率化であり、ERP(企業資源計画)ソフトウェアが担ってきた。第二波は、フロントエンドの効率化であり、CRM(顧客関係管理)システムは、Salesforce.comのように、非常に大規模な変革が起きた。

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Adobe Marketing Cloudの全体像。コアサービスの中に「場所」が加わり、より精度の高い一人ひとりへのマーケティングの実現に対応する

アドビは、顧客体験がビジネス変革の第三波であると主張する。その原動力は、顧客がほぼ必ずスマートフォンを持つようになったことだ。モバイルからアクセスするウェブやアプリによって、企業は顧客といつでも、どこでも接することになった。一人ひとりを知り、テクノロジーを透明化する。

エクスペリエンス・ビジネスは、マーケティングが企業経営の中で最も重要な位置づけへと昇華するための、テクノロジーを駆使していくアイデアだ。顧客一人ひとりのニーズを叶える体験を、あらかじめ先回りして用意する。そんな顧客にとっての心地よさを、わかりやすいゴールのひとつとしている。

たとえばマクドナルドは、モバイルを駆使して、「顧客へ」ではなく「誰に向けて」サービスをするのかを掘り下げるようになった。またロイヤルバンク・オブ・ スコットランドでは、「Superstar DJ」と呼ばれるチームが、顧客と向き合うデジタル戦略を用いている。組織として顧客体験に取り組む体制が、ビジネスを前進させる。そんなメッセージが、イベント全体を通じて、あふれていた。

ストーリーを紡ぐのは誰か

Adobe Summitを通じて筆者が感じた最も大きなことは、これから企業が顧客体験を作り出す際、求められるスキルが変化していく、ということだ。アドビのプロダクトで言えば、クリエーティブ・クラウドはデザインやクリエーティブに携わるチームのためのもの、マーケティング・クラウドはマーケティング部のためのものだった。

これからは、マーケティングに携わる人は、メッセージやその伝え方であるクリエーティブを動的に変化させ、最適化していかなければならない。デザインチームも、セグメントやデータを基にして、ターゲットごとにクリエーティブを変化させなければならない。クリエーティブとマーケティングの人材が、より良く交流し、あるいはこれらを1カ所でこなすチーム作りをしなければ、顧客体験からビジネスを変革することはできないだろう。

そうした環境の変化の中で個人に求められるスキルは、デザインの感性とデータの背景を持ちながら、顧客が喜ぶことを考えられるかどうかだ。顧客へのサービスにかかわるのは、製品開発からセールス、サポートにいたるまであらゆるポイントへと広がっており、あらゆる社員が顧客との長い信頼関係を築くために役割を担うことになる。アドビはマーケティングのためのツールを、経営のためのツールに昇華させようとしている。分析やクリエーティブのアシストに、データや機械学習が使われ、われわれをアシストしてくれる。

しかし、やはり顧客のためのブランドストーリーを立てるのは、われわれの仕事として残っていくことになり、ビジネススキルとして求められる時代はもうすぐそこに来ている。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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