テロリストは「安くて簡単」な手で恐怖を煽る 「経済学」でテロの狙いを考える

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でも、慢性インフレの国の人たちは、どちらかというと素早くそんな環境に適応している。テロに関しても同じことが起きている。イスラエルでバスに乗っていてテロを受け、死んでしまうリスクは実際には低い。ゲイリー・ベッカーとヨナ・ルビンシュタインが示したように、イスラエルでバスに乗るのに慣れている人たちは、爆弾テロをするぞという脅しにあんまり反応しない。同じように、イスラエルでバス運転手をやっていてもお給料はその分高くなっていたりしない。

ほかにも、もういくつか僕たちにやれるいい手がある。外国から仕掛けられるテロの恐れには、入国審査でふるいにかけて危なそうな人たちを入れないやり方がうまくいく。それに比べると見えにくいのは、危ない人が入国してしまってからだって僕たちはうまくやれる点だ。たとえば学生ビザで入国したのに学校には行っていない人がいたら、よくよく監視し続けたほうがいいだろう。

イギリスのやり方もありうる手のひとつだ。ありとあらゆる場所に監視カメラを取り付けるのである。ものすごく米国らしくない手だから、たぶんこの国じゃそういうことにはならないだろう。それにコスト負けするんじゃないかとも思う。でも、イギリスで起きたテロ攻撃の顛末を見ると、少なくとも起きてから犯人を見つけるのには役に立ちそうである。

でも、何よりも僕がはっとしたのは、テロの現状について認識が2通りありうるって点だ。

ひとつめの見方はこう。今、僕たちがテロリストに打ち負かされてないのは、政府のテロ対策がうまく行っているおかげだ。

役人にとって実際にテロを防ぐより大事なこと

もうひとつの見方はこう。テロの危険は実はそんなに大きくないのに、僕たちはテロと戦うのに、あるいは少なくともテロと戦うフリをするのに、おカネをものすごく使い過ぎている。政府の役人の大部分にとって、実際にテロを防ぐことより、テロを防ぐ努力をしているように見えることのほうがポイントが高いのだ。

運輸保安庁のトップは、携行型のミサイルで飛行機が撃ち落とされてもお前のせいだと言われることはないけれど、歯磨き粉のチューブが爆発して飛行機が落ちたら大変な目に遭う。だからこそ歯磨き粉のほうはものすごく大げさな扱いがされているのだけれど、でも、危険はというと、たぶんそんなに大きくはない。

同じように、CIAの人は、テロ攻撃が起きてもあんまり叩かれない。彼らが叩かれるのは、そういうテロ攻撃が起きる可能性があると書いた報告書が出されていなかったときだ。起きたテロについて、実際にそういうテロが起きる可能性があると詳しく報告はしていた、それを受けて誰かほかの人が対策に乗り出すべきだった、でもそういう報告は山ほど出てるので実際には対策は打たれていなかった、そういうことならあんまり問題視されないのだ。

2つ目の見方、つまりテロのリスクはそんなに高くないってほうがありえそうな話だと思う。で、考えてみるとこれは楽観的で前向きな見方だ。それでもたぶん、僕は脳タリンだか裏切り者だか、その両方だかってことになるんだろうね。

スティーヴン・D・レヴィット シカゴ大学経済学部教授

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Steven D. Levitt

40歳未満で最も影響力のあるアメリカの経済学者に贈られるジョン・ベイツ・クラーク・メダル受賞。ヤバい経済学流の考え方を企業や慈善活動に応用するグレイテスト・グッドの創設者。

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スティーヴン・J・ダブナー 作家・ジャーナリスト

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Steven J. Dubner

作家として表彰を受け、ジャーナリストとしても活動し、ラジオやテレビに出演する。最初の職業――あと一歩でロックスター――を辞め、物書きになる。以来、コロンビア大学で国語を教え、『ニューヨーク・タイムズ』紙で働き、『ヤバい経済学』シリーズ以外にも著書がある。

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