米国の「有給取り放題」は、機能しているのか 実施しているのはたった3%だった

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エージェンシーリサーチ企業4Aのアンケート調査によると、200社存在するエージェンシーのうち、「有給取り放題」制度を実施しているのは、3%しかないという。その一方で2016年、TBWA L.A.やドイッチュ L.A.(Deutsch L.A.)に追随して、プロジェクト:ワールドワイド(Project:Worldwide)などのエージェンシーもこの制度を導入した。

しかし、現在もっとも一般的な有給制度は、「勤続年数が5年以下の者は10日間」というものだ。また、アンケート調査の対象となったエージェンシー企業200社のなかに、55種類もの異なる制度が存在していることも判明した。

エージェンシー、MRYでストラテジーを担当している24歳のトニ・ドーキンス氏も、「有給取り放題」制度を利用している。彼女は、この制度を導入しているエージェンシーが少ないことに驚きの声を上げた。彼女にとって、この制度は「一番気に入っている特典」だそうだ。

もちろんメリットもある

しかし、「有給取り放題」制度を導入すると、実際に有給を取得する日数が減るということが、調査で明らかになっている。これは有給を取得する罪悪感や、出勤率を競い合う文化が要因になっていると考えられているようだ。

実際に、MRYでも有給取得の平均日数が、ほかのエージェンシーと比べ「下回っている」と、人事部門の取締役エド・マンギス氏は話す。これを受けてマンギス氏は、「有給取り放題」制度は才能ある人材を魅了するためだけのものだと付け加えた(産休や無料ランチなどの制度のように、「有給取り放題」制度もNetflixのようなシリコンバレー企業を真似て作った制度だ。若い人材を獲得するための制度として、エージェンシーは利用している)。

しかし、この制度は、社員への善意以外に企業の利益にもつながっている。たとえば、社員が退職する際、企業側は未取得分の有給に対する支払い責任がない。また、有給取得日数を管理する必要性がないため、経理が楽になるという点もある。

ドーキンス氏に2015年取得した有給の日数を聞いたところ、彼女はしばらく計算しはじめ、そして自らの有給取得日数に驚きの声を上げた。通算でわずか14日しか有給を取得していなかったのだ。彼女はもっと有給を取得していたつもりだったという。

だが、有給取得に関して、次のようにも認めている。「有給を取りすぎだと思われているのではないかと、潜在意識でずっと考えている。しかし、これも人間の性だから仕方がない」と、彼女はコメント。「管理部門とも、有給の日数や仕事とのバランスについて確認しなくてはならない」とも、最後に付け加えている。

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