「JR・東武直通特急」協調路線10年目の課題 東武線内でのSL運行など話題豊富だが・・・

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直通特急が走り始める前年の2005年に約1144万5800人だった日光市への年間観光客数は、実は運行開始後の06年には1139万人へとやや減った。翌2007年には1163万人まで増えたものの、08年には再び1127万人まで減少するなど、浮き沈みが激しい。日光市の担当者は「国内旅行自体の減少」を観光客数減の理由に挙げるが「直通特急も便数が多くないこともあり、当初の認知度は高くなかった」と話す。

2014年の観光客数は約1074万5000人で、東日本大震災の発生した2011年の862万7000人と比べればだいぶ回復しているが、震災以前の水準には戻っていない。

来年度にはSLも観光資源に

だが、明るい兆しもある。海外からの観光客数は年々増加が続いているといい、4月には成田空港~宇都宮間を走る空港バスを延伸する形で、成田空港と日光を直結するバスも運行を開始する。さらに、鉄道自体も観光資源になりそうだ。東武はJR北海道が所有する蒸気機関車C11形207号機を借り受け、2017年度中に鬼怒川線(下今市~鬼怒川温泉間)でSL列車の運行を開始する予定だ。

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東武鉄道が2017年度中に鬼怒川線で運行する予定の蒸気機関車C11形207号機(写真:dengurikun/PIXTA)

東武はかつて、蒸気機関車による貨物列車が数多く運転されていたことで鉄道ファンに知られている。最後の蒸気機関車が姿を消したのは1966年だった。

東武線を蒸気機関車が走るのは約50年ぶりとなり、北海道からの借り受けという点も合わせ、すでに鉄道ファンの関心は高まっている。日光・鬼怒川エリアの新たな観光資源としても「新しい魅力を発信できる」(前出の日光市担当者)と期待が集まる。

日光市がまとめた2014年の「日光市観光振興計画」によると、日光への観光客はマイカーより鉄道を利用して訪れる割合のほうが高く、日光・鬼怒川への足として鉄道利用が定着している様子が窺える。来年度、SLが走り出せば地域への注目度が上がるのは確実だ。かつてライバル同士だった鉄道会社同士が手を結んだ貴重なルートをさらに活かすためには、一層の認知度アップが重要な課題となるだろう。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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