ホークス新拠点「選手と共に育つ街」の大勝負 周辺地域の力を結集、山積みの課題に挑んだ

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加えて、駅前の広域公園の活用も進めたい考えだ。敷地内には運動公園や体育館、マラソンコースもあり、県の駅伝大会ほか、すでにさまざまなスポーツイベントの舞台となっているが、ファーム誘致をきっかけに、スポーツツーリズム強化の道も開けるだろう。

その上で課題となるのが「宿泊」。現時点では周辺に宿泊施設が少なく、リーグ開幕後も当面、ビジターチームの選手は福岡市内の宿舎から筑後へ通うことになる見込みだ。この点について串田さんは「隣接するみやま市では、宿泊施設新設時の優遇条例が可決されました。当市でももちろん対策を考えおり、地域全体で受け皿を作っていければ」と力を込める。

税収増や地域経済の発展だけがメリットじゃない

スタジアム内のフードコーナーには長蛇の列。チケット売り場には次回以降のチケットを求めるファンも

新施設周辺はまだまだ未開発で、スタジアムへのアクセス道路「ホークス公園通り」は、名称こそ決まっているものの、整備はこれから。目の前に駅はあるが、歩いていける範囲にコンビニすらない状況だ。

「選手の皆さんは『田舎に来たな』と思われているでしょうね」と江崎さんは笑う。「整備はすべてこれからなんです。でも、都会と違って夜中に打撃練習をしても苦情は出ませんから、時間に関係なく思いっきり練習に打ち込んでいただけると思います」。

筑後市にとって、今後税収や地域経済にメリットがあるのは間違いないだろう。だが、同市がファームに寄せる期待はそれだけではない。

「もともと筑後地区には少年野球チームがたくさんありました。今回の誘致にあたっては、プロ球団のホームタウンとなることで、子どもたちに夢を与えられるのがいちばんの価値だと思います。ファームで頑張った選手が1軍で活躍すれば、きっと子どもたちの刺激になりますから。ファームが街の誇りになって、『筑後に住んでよかった』と思ってもらえることが、何よりの地域貢献と考えています」(江崎さん)

待ちに待ったファームの開業に、江崎さん、串田さんをはじめ、職員や市民の表情も明るい。誘致成功以来、ほかの自治体から視察の依頼も相次ぎ、確実に注目度は上がっている。この大チャンスをどこまで生かせるか。これからが正念場だ。

前編:"無名自治体"がホークス誘致に成功した理由

田中 純子 ライター

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たなかじゅんこ / Junko Tanaka

福岡在住のライター。旅行業界、インテリア業界を経験後、情報誌のディレクターとして九州各地を担当。その後、医療機関の広報誌編集を経てフリーランスに。現在、「いつまでも輝き続ける生き方」をテーマに、学び・仕事・ライフスタイルを中心とした「心のアンチエイジング」を研究中。また、地方の伝統文化について海外に情報発信することを目標に、英語の再学習にも取り組んでいる。

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