『首相の蹉跌』を書いた清水真人氏に聞く--ポスト小泉の政治を「論理」で読み解く《09年上期ベスト政治書1位》

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 次に、小選挙区制で勝ち抜くためには、「とにかく任せてくれれば、利害調整はこっちでやります」という従来のやり方は通用しない。小泉さんは、政策の優先順位を明確にして、「俺はこれをやりたい。反対なら代えてくれ」と有権者に問うマニフェスト型選挙へと切り替えた。だが、小泉さんの後継者たちは、小泉モデルから十分に学ばなかった。

安倍晋三元首相の致命的なミスは、郵政造反組の復党です。小泉さんが、造反組をパージしたのは、小選挙区というゲームのルールでは当然です。それなのに、安倍さんは、造反組を「お帰りなさい」と言って迎えた。「情」を優先した。それは「理」という点では許されない。せっかく民営化に賛成か反対かで政権を選ぶ一票を投じたのに、たった1年で水に流すのか、と。

もう一つの大失敗は官僚たたきです。自民党は50年も政権政党だったのだから、自民党と霞が関は共犯関係です。自分たちは責任を取らずに、霞が関解体を訴えるのは勝手すぎた。その象徴が、年金記録の問題です。社会保険庁がガタガタになった一因は社会党を支持していた自治労系の労組にあります。国と地方の間で彼らの身分をあいまいにし、十分に統制できなかったのは自民党と社会党の談合の結果です。厚生労働省の官僚だけの責任とはいえません。

官僚たたきを安倍政権が前面に出したのは自殺行為でした。「脱官僚」にしても、福田康夫元首相が言い始めた「行政の無駄撲滅」にしても、今や民主党のスローガンになっている。敵に塩を送ったようなものです。

--そして今、民主党は国の統治機構を大きく変えようとしている。
 
 民主党は「小泉・竹中改革路線」を強く批判していますが、大づかみに言えば、民主党は小泉流の政権マネジメントを引き継ぎ、より進化させようとしているともいえます。

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