未来のファッション誌は「買い物」に直結する 紙とデジタルの新しい関係が始まった

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そのページに掲載されている商品には、24時間対応の接客サービスを示す「コンシェルジュ(concierge)」、ジャケットなどアイテム別ページに進む「探す(find)」、有名人やモデルが実際に身につけている商品すべてをチェックする「もっと見る(see more)」というラベルが付けられている。

ヨーマンズ編集長によると、『ポーター』には、購入できる商品が各号に平均で500アイテム掲載されているという。関連商品を考慮に入れると、その数は2000アイテムになる。2015年の読者調査では、商品のスキャン回数は8万5000回で、インタラクション率は78%だった。

UXについては、読者が端末で『ポーター』のページを移動する際は、動作が少しぎこちなく感じることがあり、慣れるのに時間が掛かるようだ。しかし、パーソナルサービス風にするために、コンシェルジュサービスなど、eコマースストアでは入手できない特定商品を探してくれるサービスも提供している。購入者がニューヨークやロンドンにいる場合は当日発送も可能だ。ほかの地域でも配送料無料となっている。

ヨーマンズ編集長によれば、「NET-A-PORTER」は、どちらかと言えばオンラインコンテンツブログに近い、同社のデジタルカタログ『The EDIT』もサポートできる。

『ポーター』掲載アイテムを、「The EDIT」ではすべて紹介しているが、「NET-A-PORTER」では扱っていないものもある。また、同誌には『ヴォーグ』同様に、多くの広告が溢れている。シャネルのようなブランドや、女優ユマ・サーマンのようなセレブと築いた関係のおかげで広告収入を得ているのだ。そのため、49人から成る編集チームは、ショップサイトと切り離した編集作業を存分に行えるという(「The EDIT」には25人のスタッフがいる)。

出版不況に一石を投じる

「『NET-A-PORTER』は、自ら採算が取れるマーケティングツールのようなものだ」と、ヨーマンズ編集長はいう。

刺激的な誌面を利用して、読者に購入を促す雑誌は、『ポーター』だけではない。『ヴォーグ』では、画像・音楽認識アプリ「Shazam(シャザム)」によって拡張される広告が掲載されている。その一例が、2015年9月号に掲載された米小売大手ターゲット(Target)の見開き広告だ。また、女性向けファッション誌『エル(ELLE)』は、買い物案内アプリを提供するショップアドバイザー(ShopAdvisor)と提携し、ビーコンメッセージを利用して、記事から実店舗に顧客を誘導している。

「ブランドとパブリッシャーの両方を兼ねている場合は、顧客に購入してもらう方法において、もっと明確でユニークな視点に立ち、ページの枠を越えられるようにしなければならない」。米エージェンシー、アーウィン・ペンランド(Erwin Penland)のエグゼクティブバイスプレジデント、ジェシカ・ナバス氏はそう指摘する。

今後、紙の媒体は廃れると予想されてきたが、『ポーター』に関しては、記事にCTA(Call to Action)機能、購入ボタンを追加することで、その予想に抗っている。

Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)

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DIGIDAY[日本版]編集部

2015年9月1日にローンチした「DIGIDAY[日本版]」を運営。同サイトでは米「DIGIDAY」が日々配信する最新のデジタルマーケティング情報をいち早く翻訳して掲載するほか、日本国内の動向についてもオリジナル記事を配信している。メディアジーンが運営

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