東芝、一息ついたがV字回復実現には課題山積 資産売却と赤字事業売却で「延命」

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債務超過の懸念もある綱渡りの状態だったが、3月に入ってリストラを加速。長年に渡って赤字を垂れ流していた家電事業は、うち白物家電について、中国家電大手の美的集団に売却することで合意。医療機器で100%子会社の東芝メディカルシステムズも、約6655億円でキヤノンに売却する。今期に売却益が計上されれば、株主資本は10%程度に回復する見通しだ。

今後の成長を牽引する柱として据えたのが、「半導体」、原子力を軸とする「電力関連」と、昇降機や空調など「社会インフラ」の3つである。これらの事業に経営資源を集中的に投入する目論見だ。特に半導体のNAND型フラッシュメモリは、データセンター向けに拡大が見込まれている。その需要を取りこぼさないためにも、2019年3月期までに計8600億円の巨額投資を行う。当面は東芝メディカルシステムズを売却で得たキャッシュを原資に充てる。

外部環境悪化なら危機再現も

とはいえ、室町社長も「一安心できる状況ではない」と語るように、先行きは不透明だ。経営危機の水準は脱したとはいえ、一般的に安定的といわれる30%以上の株主資本比率までにはほど遠い。円高の進行など外部環境が悪化すれば、10%の株主資本はすぐにも1ケタ台に落ち込むことが考えられる。

さらなる株主資本増強のため、主要子会社の追加の売却については、「社内連携を図るうえで、これ以上の事業売却は考えていない」(室町社長)と否定。一方で、土地などの資産売却は制約を設けず、進める考えだ。ただし、土地や株を売却しても、東芝メディカルシステムズほどの大きな金額は望めないだろう。限られた資金を成長投資にどのように分配していくのかが今後の課題となりそうだ。

室町社長は構造改革が一段落した後、退任する意思を以前から示していた。18日の会見では自身の進退について、「(仕事が)一段落というのは時期尚早」とした。数少ない優良資産の売却、垂れ流していた赤字事業の整理には、ようやくメドがついた。が、残る三本柱における成長やガバナンスの確立など、市場の信頼回復のためになすべきことは山積みだ。

富田 頌子 東洋経済 記者

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とみた しょうこ / Shoko Tomita

銀行を経て2014年東洋経済新報社入社。電機・家電量販店業界の担当記者や『週刊東洋経済』編集部を経験した後、「東洋経済オンライン」編集部へ。

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