MRJに迫るライバル機、「2年先行」を守れるか 三菱航空機の森本浩通社長に聞く

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飛行試験で名古屋空港を飛び立つMRJ。テストプログラムを効率よく消化するため、2016年後半から飛行試験の拠点を米国に移す(写真:三菱航空機)
三菱重工業が傘下の三菱航空機を通じて開発を進める地方路線用の小型旅客機、MRJ(三菱リージョナルジェット)。開発着手から7年を経て2015年11月に初飛行を成功させたが、その直後にまたもや開発スケジュールの延期を発表し、ローンチカスタマーのANA(全日本空輸)への初号機納入は2018年半ばへとずれ込んだ。
一方、最大のライバルであるブラジルのエンブラエル社は2月末、MRJを迎え撃つ改良型後継機の試験初号機を初めて公開。2016年内に飛行試験を開始する予定で、三菱にとって時間的な猶予はいよいよなくなってきた。今度こそ納入開始のスケジュールを守れるのか。三菱航空機の森本浩通社長に聞いた。

絶対的な経験や知見が不足している

――納入開始の予定時期が2017年4~6月から2018年半ばへと先送りされました。改めてその背景を聞かせて下さい。

今後の開発スケジュールを再検討した結果、目標としていた2017年上期までにすべての開発作業を終えるのは難しい、という判断に至った。旅客機開発は、国から機体設計の安全認証(型式証明=TC)を得て初めて作業が終わる。この認証取得のメドを2017年春と考えていたが、もう少し時間がかかる。

理由については何点かあるが、一番大きいのは地上試験項目の見直し。TCの実務に精通した米国の企業と今後のスケジュールを議論していく中で、(飛行試験と並行して行う)地上での試験、たとえば電磁、耐電などの試験項目をもっと拡充したほうがいいとの指摘を受けた。

こうした項目は主に解析によって安全基準への適合性を証明するつもりだったが、TCをスムーズに取得するには、実機を使った地上での試験を徹底的にやっておいたほうがいいと。そういった指摘を踏まえて地上試験の中身を増やしたため、その分、時間を要することになった。

――2008年に本格的な開発が始まって以降、納入スケジュールの延期は今回で4回目。初飛行でムードが盛り上がった矢先だっただけに、失望の声が相次ぎました。

日本における旅客機開発はYSー11以来、半世紀ぶりのこと。絶対的な経験や知見が不足していることは否めない。今回のデリバリー時期の延期にしても、知見不足で見えていない部分が多々あった。

ANA(全日本空輸)さんを始め、発注を頂いている国内外のエアラインにご迷惑をおかけし、大変申し訳なく思っている。これ以上は絶対に遅れないようにと釘を刺されたが、新たなスケジュールについては「フィージブル(実現可能)」という評価をいただいており、発注自体をキャンセルしたり、仮予約分の行使をやめる、という話は出ていない。

――最大の強敵であるブラジルのエンブラエル社は、MRJと同じ最新鋭エンジンを採用した改良型機(E2シリーズ)の開発を進めています。三菱が開発に手間取っているため、納入開始時期も大差なくなってしまいました。

E2は現行機をベースとした改良型。一方、MRJは最初から米プラット&ホイットニーの最新鋭エンジンの性能を最大限に引き出せるように設計してある。同じエンジンになっても、燃費性能で完全に追い付かれることはない。デリバリー開始時期は同じ2018年だが、E2は100席超の大きなサイズから納入が始まる。厳密な意味でMRJと競合する「175ーE2」の納入開始予定は2020年なので、こちらにまだ2年のアドバンテージはある。

そうは言っても、性能とデリバリー開始時期の両方で以前より優位性がだんだん減ってきていることは事実。当然、その点については非常に強い危機感を持っているが、焦っていいことは何もない。エンブラエルがどんな動きをしようが、今はひたすら「忍」の一文字で、自分たちがやるべき開発を着実に進めていく。

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