(第4回)<高木美也子さん>「この先生にはかなわない!」先生は、生徒が尊敬できる何かを持っていた

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●印象に残る授業は…自分がした授業かな(笑)

 自分が教える立場になり、短大で講義をしている頃、短大ですからあまり勉強の得意でない子も中にはいまして……。まして生物学の授業でしたから、理系の苦手な子や興味のない子が多かった。
 ある日、みんなで実験をしていると、 「私は実験ってよくわからないから、貢献できないし、みんなのためにこれをがんばります!」って健気にビーカーを洗っているんですね(笑)。
 また、みんな普通に理系の話をしても興味がなさそうで、髪なんか巻いたりしているのですが、化学の亀の子(ベンゼン環)とかは一切使わずにお話して一年を終えたとき、授業の感想を書いてもらったら、「自分はずっと勉強ができなくてようやく短大に入って……。これまでずっと価値のない人間だと思っていた。でも先生の授業を聞いて体の中がすごく精密にできていて、複雑に動いているという事実を知り、私も生きている価値があるんだなと思った」と書いてくれたんです。ああ、私、よい授業をしたなって(笑)。
 短大のときはいろんなことがありました。生徒が敬語を使わなくて、「なぜ?」と聞いたら、小学校や中学校では「先生は友達だから」と敬語を使わせなかったらしいのです。それはおかしいと思って、「私は先生なのだから、敬語を使って話してね」といいました。親しさと敬意とは別のものだと思うのですが、驚きました。

●大学講師も評価する、カリキュラム採点制度

 最近、大学も変っています。文部科学省の指示により、大学の授業内容について毎年学生にアンケートをとらせています。その内容も、授業がどうだったかということではなく、「カリキュラム通りに進めていたかどうか」が重要視されていて、たとえば、私の授業でも、論議が白熱してくると時間をオーバーしてしまい、カリキュラム通りになんて進まなくなることがあります。それを採点のためにという見方をすれば、中断してでも進めなければならなくなる。まるでカリキュラムをきちんと進めた人がいい先生で、カリキュラム通りに行なっている授業がいい授業という風になりかねないと思います。大学なのだから、もっとユニークな先生がいてもいいと思いますし、学生も各授業についてアンケートを書き込む作業は面倒くさいだろうと思います。
 他にも、授業が始まる前に、授業で話す内容をパワーポイントで作り、学生にコピーを配布しろというのです。だから、学生はノートをとらなくてよかったり。ノートをとるというのは、自分の必要なところだけメモしたり、大事なところにマーキングしたり、そうしたことが大事だと思うので……。このパワーポイントを作るのが大変だから、内容を変えたいと思っても、作業が面倒なので、このままでいいやなんていう気持ちになってしまいますよね(笑)。
 ゆとり教育は確かに間違っていたと思う。でも、今度は塾がいけないとか、極端な議論に展開しすぎたりしないよう、考えていかなければいけないと思います。
(取材:田畑則子 撮影:戸澤裕司

高木美也子<たかぎ・みやこ>
京都生まれ。
青山学院大学理工学部卒業。仏・ソルボンヌ大学博士課程修了。理学博士。現在、日本大学総合科学研究所教授。専攻は生化学、生命倫理。
CNNキャスターを経て、現在『サタデースクランブル』(テレビ朝日系)『朝ズバ!』(TBS)など多数出演。
文部科学省生命倫理・安全部会委員、文部科学省特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会委員、東京大学医学研究所遺伝子治療臨床研究室審査委員を務める。
著書に『クスリになる話』『生命のゲーム』『身体と性のあぶない話』『操作されるイノチ 複製されるワタシ』『人間パズル』など。
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