「並行在来線」が将来直面する深刻な問題 人材と財源不足で"第2の国鉄改革"必要か

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東北新幹線の並行在来線として誕生した「IGRいわて銀河鉄道」(撮影:山井美希)

貨物調整金は、2011年度の拡充で10年分1000億円が用意されたが、その一方で整備新幹線はまだ開業していない路線・区間があり、さらなる新線計画を要望する地方も多い。

今春開業する北海道新幹線は、青函トンネルという超巨大施設の維持管理費はじめ北海道新幹線固有のコストが大きく、それに対して需要は少ないため、単独では収支が償わないと想定された。つまり、並行在来線に投じる資金を捻出できない新幹線の誕生である。

今後、負担が増え続けて、国が財源を見いだせなくなったら、地域単独では並行在来線を支えられない。JRから分離された並行在来線は、地域の旅客輸送を担う一方で、むしろ貨物輸送のために維持されている面が大きい。その後のストーリーとしては、一地域が全国物流の一端を支えることの是非が改めて問われ、物流は高速道路のトラック輸送で賄える、という主張が出てくるかもしれない。

一方、道路・船舶・航空とある中で、やはり鉄道の役割も重要であると国が明確に位置付ければ、国による支出は不可欠になる。その中で国として鉄道貨物を重視するなら改めて鉄道の特性を伝えるとともに、鉄道を支える国家的な理由を示し、広く国民の納得が得られるようにしなければならない。

“第二の国鉄改革”が始まる

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だがその次には、限られた財源の多くが並行在来線等の幹線系統の維持に費やされば、枝葉、すなわち鉄道特性が発揮されなくなってきている地方のローカル鉄道はじめ、他の施策に回る資金が議論されよう。

すなわち、新幹線網が今後も拡充して並行在来線がますます増え、その維持が政策への依存度を強めるほど、国の支出は増す。あたかも新たな国有鉄道が誕生するようなものである。それが負担で耐えられなくなったとき、地方のローカル線から整理されていくという第二の国鉄改革というべきシナリオが再現され始めている。

本当に望まれる鉄道や交通システムはそのような姿なのか、持続可能な形にするには何を取捨選択するか、これから否が応でも議論せざるをえない。作った分の負担は増える――。その自明の理を改めて問う必要性が、整備新幹線と並行在来線によって露呈してきたと考えられる。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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