プロ経営者は日本郵政をどう舵取りするのか 西室社長の後任にゆうちょ銀の長門氏が昇格

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日本郵政は、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の金融2子会社に利益の大半を依存。国内物流や郵便事業を展開する日本郵便は、全国に約2.4万の郵便局ネットワークを抱えるが、金融2子会社からの手数料収入に依存しており、収益性は低い。

しかも、堅固な財務体質を誇る金融2社にも、日本銀行によって当座預金の一部に対するマイナス金利が導入されたことで、2月以降は大きな逆風が吹いている。

ゆうちょ銀、かんぽをマイナス金利が直撃

長門氏は2015年5月に日本郵政グループに参画したばかり。わずか1年弱の経験を経て、巨大企業の舵取りを担う

ゆうちょ銀行でいえば、運用資産約206兆円のうち、国債による運用がなお、約41%を占めている。

目下、ゆうちょ銀行は、佐護勝紀副社長(元ゴールドマンサックス証券副社長)を中心に、外国債券などに積極的に投資するサテライト運用などを駆使しているが、この情勢下で運用益をあげるのは容易ではない。

実際、郵政グループが三井住友信託銀行、野村ホールディングスと共同設立した戦略会社のJP投信が2月22日から全国の郵便局などで国債を中心とした新商品を売り出す計画だったが、このうち「JP日米国債ファンド」については、マイナス金利の導入で販売中止に追い込まれている。

長門氏は、今後の経営方針について、従来の「全国の郵便局ネットワークを活かした、トータル生活サポート企業」という路線を継続することを強調したうえで、「クールヘッドとウォームハートで行きたい」と述べた。

これは「冷静な頭脳と、温かい心」といったニュアンスで、J.M.ケインズを育てたことでも知られる、英国の著名な経済学者アルフレッド・マーシャルが経済学を学ぶときに重要なものとして語った言葉を引用したものだ。

ひらたくいえば、人としての温かい心を持ちつつも、客観的な指標を重視し、M&Aや組織再編などの際には論理的に説明できる経営をするといったところで、国際金融派らしい「所信表明演説」だった。

ただ、会見では「言葉の軽さ」も散見された。例えば、ゆうちょ銀行の後任人事を問われると「今日から(社長候補を)勝手に何人か考えて、ご無礼にならないように当たっていく」と、答えている。言葉尻だけとらえれば、「自らが中心となって、人選を進めて行く」という意味で誤解を受けかねない。

日本郵政は財務省が筆頭株主だが、運営には事実上、官邸や総務省なども関与している。良くも悪くも、政府や郵政関係者などステイクホルダーの意をくみ取って動いていた西室氏に比べれば、長門氏の時に率直な物言いは、不興を買う可能性もある。

率直さが持ち味の国際派の金融マンが、巨大組織の長としても、どこまで実力を発揮できるか、要注目だ。

福井 純 東洋経済 記者

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ふくい じゅん / Jun Fukui

「会社四季報オンライン」編集部長。『週刊東洋経済』編集部、『会社四季報プロ500』『株式ウイークリー』『オール投資』編集長、「東洋経済オンライン」編集部長、証券部長を経て現職。国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe®)、日本テクニカルアナリスト協会理事

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