世界の自動車メーカーは転換期に、各国の政府支援もかえってアダに《スタンダード&プアーズの業界展望》

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アナリスト 薩川千鶴子 小林 修

GMとクライスラーの米国大手2社の経営破綻を経て、業界再編の波が起こりつつある世界の自動車業界は、転換期を迎えている。昨年来、大きく落ち込んでいる自動車需要は、政府による購入者向けの補助金制度や減税措置のおかげで、市場によっては、いくぶん落ち着きを取り戻しつつある。それでも、2009年の世界の自動車需要は、1年前と比べてかなり低い水準にとどまるだろうし、2010年は、欧州市場、特にドイツ、フランス、イタリアで、需要の大幅な減少が予想される。

2009年に導入された「スクラップ・インセンティブ(廃車奨励金制度)」により需要を先食いした反動が予想され、それが景気回復に伴う需要増を上回るとみられるからだ。米国や日本でも、政府による需要刺激策の効果は一時的で、需要の回復があっても緩やかなものにとどまると見ている。新興国市場でも需要回復が持続するか不透明感がある。現時点では2009年を底に2010年の緩やかな回復を想定しているものの、世界的な自動車販売の低迷が長引けば、自動車メーカーの収益性やキャッシュフローの回復も遅れるリスクがある。

政府支援で解決されない構造問題

政府による債務保証や資金供与によって流動性が支えられている事例もあるが、それによって業界の構造的な問題が解決されるわけではない。また、こうした政府支援が、ますます複雑化している商品群の管理や、生産、流通、車種などの面での環境対応によって低迷する自動車メーカーの利益率の改善につながるわけでもない。

政府支援を受けたために、人員削減や工場の移転・閉鎖などによる構造改革や収益性改善への取り組みが制約されるのであれば、かえって自動車メーカーの競争力は低下しかねない。政府支援は短期的には危機回避に役立つかもしれないが、必要な合理化や過剰生産能力の削減の障害となる可能性もあるとスタンダード&プアーズはみている。

また、減税や政府による奨励金制度によって人為的に販売が促進された場合、自動車業界を取り巻く環境ががらりと変わったなかでメーカーが自社のリポジショニングに役立てられる構造改革プロセスが妨げられるおそれもある。

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