被災者の住宅支援、まかり通る「恣意的運用」 「町外に転出なら支援対象外」はおかしい

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その結果、支援実績に大きな差が付いている。石巻市では支援実績が605件(2016年1月末)にのぼっており、そのうち3割弱が市外への移転に対する支援となっている。一方、制度の利用を町内への移転に限定した山元町ではわずか11件しか利用実績がない(同2月末時点)。しかも山元町では、災害危険区域のうち、津波浸水リスクが大きい第1種および2種からの移転に支援対象を限定している。

前出の男性は比較的規制が緩い第3種災害危険区域に住んでいたため、山元町に残した土地を買い取ってもらうこともできず、今年から使い道のない土地にもかかわらず、固定資産税の支払いが始まっている。

同じく山元町から、隣の亘理町に転出した男性(65歳)も、山元町の支援の薄さを感じている。男性宅は津波の危険性が高く、新築や増改築を禁止された第1種災害危険区域にあったため、「防災集団移転促進事業」の名目で山元町に更地になった宅地を買い取ってもらえた。

ただ、町内での移転とは異なり、新たに土地を購入したり、住宅を建築したりする場合の援助はなかった。ほかの支援は引っ越し資金だけだったという。引っ越し先の亘理町から100万円の支援があったものの、長男やおばからの資金援助がなければ自宅の再建はできなかったという。

財源は国が出しているのに?

国交省や宮城県はがけ近事業などで自治体によって運用の格差があることについて、特に問題だとは認識していないという。国交省住宅局建築指導課の担当者は「がけ近の目的は危険な地域からの移転を促進するもの。支援対象を自治体内での移転に限定していても、本省が設けたルールから逸脱していなければ問題はない」と説明する。

宮城県建築宅地課の担当者も「そもそも市町村の事業なので、対象を絞ることにストップはかけられない」と話す。

東日本大震災では被災者支援に必要な財源のほとんどを国の予算に依存している。その一方で、使い方については自治体の裁量の幅が大きい。そうした中で自治体は「定住促進」「人口減少対策」などの名目で、"わが町"の意向に沿った被災者への支援を手厚くする一方、その尺度に合わない被災者への支援が手薄になっている傾向がある。

だが、こうしたやり方は被災者支援のあり方からみて、問題があると言わざるをえない。誰のための被災者支援策なのか。国は住宅再建のために多額の予算を出している以上、自治体による運用の実態をいま一度チェックし、そのやり方に問題があれば是正を促す責務があるだろう。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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