被災者の住宅支援、まかり通る「恣意的運用」 「町外に転出なら支援対象外」はおかしい

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それから3カ月後、男性は戸建て住宅を見つけて移り住んだ。長男からも資金の援助を受けたが、700万円の住宅ローン借り入れを余儀なくされた。今年11月には住宅金融支援機構による5年間の無利子期間が終了し、利払いが始まる。

「私自身は年金しか収入がない。長男と協力して払っていこうと考えているけど、向こうも生活は楽じゃない。せめて町からの利子負担分の援助を得られていれば」と男性は打ち明ける。男性によれば、町からは引っ越し費用の補助を受けただけだという。

山元町の新市街地。ここに移り住む場合は手厚く支援されるのだが……

山元町が策定したがけ近事業の要綱によれば、災害危険区域内の自宅から退去して町が造成する住宅団地または町内の災害危険区域外に住宅を建築する場合に限って、利子相当額を受け取る支援策を利用できる。その上限額は722万円にのぼる。一方、町外に転出した場合は「対象外」(山元町震災復興企画課)である。

「人口流出を防ぐため」

その理由について同課の担当者は「人口流出を防ぐため」と説明する。その結果、男性のように町から出て行く人は割を食う形になっている。山元町の別の担当者も「町外で自宅を再建した方から多くの相談がある」(被災者支援室)としつつも、「がけ近の対象を広げる考えはない」(同)という。

山元町以外の自治体に目を転じてみると、移転先がどこであっても支援の対象として位置付けられている自治体が多い。気仙沼市の担当者は「全国どこへ移転したとしても、がけ近事業に基づき、住宅ローン利子などの支援を受けることができる」と説明する。石巻市でも同様のルールを設けている。

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