(第12回)<乙武洋匡さん・後編>のび太もスネ夫もジャイアンも認めあえるクラスを作りたい

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(第12回)<乙武洋匡さん・後編>のび太もスネ夫もジャイアンも認めあえるクラスを作りたい

●悪いところばかり報道されてしまうが……

 僕が小学校の頃と今と、子ども自身はそんなに変わってないと思います。ただし、当時は大人として子どもと接してないからよくはわからない。でも、やっぱり学校が忙しくなったということは感じます。子どもを帰したあと、先生がこんなに忙しい思いをしているんだということは、実習をしてみて初めてわかったことですね。
 僕らの頃は、放課後にもっと学校に残って遊んでいた記憶がありますが、今はすぐに子ども達を帰して、先生は会議や事務作業をすることに追われている気がします。これは子どもにとっても、先生にとってもよろしくない状況なんじゃないか、と。こんなにいろいろ抱えさせられていて、ちょっと何かボロが出てしまうと、マスコミから一斉攻撃をくらってしまうこの現状は気の毒だと思いました。

 メディアは、ほとんど不祥事しか扱いません。先生がセクハラしたとか、暴力がおこったとか。メディアから受ける印象により、教師の能力やモラルが低下したと僕は思っていました。多分世間も同じでしょう。でも、実際に学校に行ってみると、どの先生も朝は8時前から学校に来ていて、夜は9時10時まで残っていろんなことをしている。ごく一部の先生が何かしでかしてしまったときに、集中攻撃されるので、どうしても全体が低下しているように思われてしまいます。ベテランの先生なんかは、「質うんぬんの話はできないけど、昔の僕らなんかよりも今の若い先生のほうがよっぽどがんばってるし、よっぽど大変な仕事をしている」と言っています。

●教師の喜びを感じた瞬間

 教育実習のとき、小学校六年生の算数を見ていました。TT(チームティーチング)の時間ですが、担任の先生が黒板で授業を進めている、僕らは補助教員でぐるぐる回って子ども達を見てあげます。ぱっとのぞきこんで、できていない子がいると、「どう、わかる?」と聞いて「わからない」という子に「これこれこうやってごらん」といろいろ教えてあげます。そして、しばらくして顔をぱっとあげて、「できたよ!」っていう……あの顔が忘れられない。
 今までできなかったことが、教えてあげることによってできるようになる。子どもの喜びの顔というのはイコール教師としてのやりがい、僕の喜びであるし、教えている人の喜びだと感じました。これは実習をやってみなければ感じられなかったことです。

 僕自身にも、できなかったことができるようになったという経験があります。僕の場合は、同じことをやろうとしても人よりも時間がかかってしまうことが多い。けれど、担任の先生もそうだったし、両親もですが、僕に最後までやらせずに、横から手を出してしまったほうが楽だったと思います。しかしそれはあえてせず、時間をかけて自分ができそうなことはやらせてくれたので、僕は達成感を得る喜びを学べました。大人になってからも、やれることなら自分でやろうという気持ちや、困難に見えることでもきっとやったら気持ちいいだろうなということを知っていたからこそ、チャレンジ精神というのがついたと思うのです。もし、あのときに先生や両親が、「そんなのやってあげるから」と手を出していたならば、もっと僕は他人に依存するような生き方、生活をしていたと思います。

 僕が実習をやっていた時もそうだし、新宿区の職員として中学校を回ったときもそうだけど、一人を待ってあげることは難しい。自分が待つだけならいいのですが、たとえば40人のクラスなら他の39人も待たせてしまう現実というのもあります。そのバランスが非常に難しいなと思いました。

 だからこそ、補助教員やボランティアスタッフをどんどん教室に取り込んで、待ってあげられる体制を作ってあげたいと思いますね。  一人の教員じゃ、40人と向き合って、一人を待ちつつ、39人にも無駄な時間をさせないようにするのは困難だと思います。かといって予算がいくらでもあるわけではないので、たとえば、教員志望の学生や、会社を退職する団塊の世代の人たちなどを地域から取り込めるような環境を作らないと、教室が苦しい状況になっていくと思いますね。

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