海運業界、「用船料はピーク時の1%」の悪夢 商船三井は赤字転落、リストラ後も視界不良

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縮小

3社ともこうした苦境に手をこまぬいていたわけではない。リーマンショック後は、大型船投入による効率化、老朽船処分や不採算航路縮小を進めてきた。が、それらは、市況回復を前提としたものが多かった。現実の変化は速く、市況が予想以上に悪化すると、リストラを繰り返し迫られた。今の低迷は経営判断の遅れが招いた結果だ。

大荷主である資源・穀物メジャーは寡占化し、輸送の一部を自社船が担うなど、価格支配力を強めている。海運の側も、コンテナ船の世界最大手・マースクラインなどは、M&Aと超大型船の投入でシェア拡大を進めている。

これ以上の円安効果は期待薄

一方、日本勢が新たな柱として期待を寄せるLNG船や海洋開発などのエネルギー分野は、原油安を受けて不透明感を拭えない。これまでは円安と燃料安が本業の低迷をある程度補っていたが、2017年3月期はこれ以上の下支えを期待できそうもない。

海運市況は長期で見れば、船舶の供給過剰と需給逼迫が20年程度の間隔で繰り返されてきた。ただ船舶の大型化、投機資金の流入で足元の需給ギャップはかつてない水準に達しており、「今度の調整には50年程度かかる」と肩を落とす関係者もいる。

足元のバラ積み船用船料は中国の春節明けで反発したが、SMBC日興証券の長谷川浩史アナリストは「ケープサイズの2017年3月期平均は7000ドル程度」と見通す。

韓国では、現代グループ中核の現代商船が経営難に陥り、資産売却を迫られている。日本勢でも、第2、第3の第一中央汽船、UOGが現れる危険は否めない。激しい市況変動という高波に翻弄され、業界は新たな航路を展望できずにあえいでいる。

「週刊東洋経済」2016年3月19日号<14日発売>「核心リポート02」を転載)

岡本 享 東洋経済 記者

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おかもと とおる / Tohru Okamoto

一橋大学社会学部卒。機械、電機、保険、海運業界などのほかマーケットを担当。2013~2015年『会社四季報プロ500』編集長、2016年「決定版 人工知能超入門」編集長、2018~2019年『会社四季報』編集長。大学時代に留学したブラジル再訪の機会をうかがう。

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