震災5年、津波に引き裂かれた被災地の思い 深い悲しみが今でも住民の心を苦しめている

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約17メートルの津波に見舞われ、市街地全体が飲み込まれた岩手県陸前高田市は人口の7%を失った。

深い悲しみが今でも住民の心を苦しめている。

「いまだに傷が癒えないというのが実情だ。新たな生活をスタートさせるのに苦しんでいる人がまだたくさんいる」と、元市職員の男性(65)は話す。勤務していた4階建ての市役所は津波で大半が水没した。

都内で11日開催された政府主催の追悼式には安倍首相や被災者を含めた約1200人が参加。天皇、皇后両陛下もご臨席した。地震が発生した午後2時46分には犠牲者を悼み、全国各地で黙とうがささげられた。

追悼式では、宮城県遺族代表の木村正清さんが、「お父さん、あの日、何度も電話しましたが、出てくれませんでしたね」と語りかけた。「基礎を残し跡形もなくなった土の上に、生前の両親の姿を映し出すかのように、折り重なるようにして見つかった夫婦茶わん。この夫婦茶わんが唯一の形見になってしまった」と語った。

政府はばく大な予算を投じ、津波対策や除染作業などを含む被災地の復興を進めているが、仮設住宅での暮らしを強いられている多くの被災者への支援対策においてはまだ多くのことが残されている。

漁師だったという陸前高田の男性は「何をしたらいいのか分からないという人が増えている気がする。心はずたずたに引き裂かれている」と語る。

残された復興の課題

政府の復興予算は2016年度から大幅に引き下げられるが、安倍首相は、今後5年間を「復興・創生期間」と位置付け、十分な財源を確保したうえで、被災地の自立につながる支援を行う考えを表明した。

安倍首相は11日の追悼式で、「一歩ずつではあるが、復興は確実に前進している」と述べた。「多くの犠牲の下に得られた貴重な教訓を、決して風化させることなく、常に最新の英知を取り入れながら、防災対策を不断に見直す」と語った。

ただ本当の意味での復興にはまだ長い時間を要する。

陸前高田市に住む消防団員の男性は、同僚51人を失った。ほとんどが救援活動中に命を落としたという。

「インフラは回復しつつあるが、心は違う」とこの男性は述べた。「亡くなった人たちの顔がいまだに目の前に現れる」と心情を語った。

(Elaine Lies記者、Hyun Oh記者、翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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