NEC離脱で混迷、国策スーパーコンピュータ開発

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 NEC出身で理研の渡辺貞プロジェクトリーダーは「まさに青天の霹靂。大変残念」と語る。だが、当初から行方を危ぶむ声は上がっていた。NECは一つのCPUで複数回の計算が可能な「ベクトル型」を採用するが、現在は汎用性の高いCPUを大量接続して能力を増強する「スカラ型」が主流。世界でトップ10にランクインするスパコンは、どれもスカラ型を採用している。

理研の渡辺氏も7月の会見上、「4月の中間評価作業部会で、NECのベクトル部と富士通のスカラ部の接続部分の問題が指摘された。スカラ部だけを採用する可能性もあった」と明かした。東京工業大学の松岡聡教授は「ベクトル型は時代遅れ。ケガの功名で、開発計画はまともな形になった」と指摘する。

NEC離脱で開発を一手に託されることになった富士通だが、負担は大きい。5月に終了したCPUの設計開発で百数十人、現在進行中の生産段階では1000人以上の技術者を投入している。国費だけでは賄えず、研究開発費以外からも費用を捻出する。伊東千秋副会長は「費用負担はかなり厳しく、NECに限らずうちも大変。幸いITサービス事業が好調なので、歯を食い縛って完成させる」と意気込む。

コンクール化するスパコン開発計画

文部科学省は「10年の試験稼働には問題ない」(井上諭一スーパーコンピュータ整備推進室長)と強調する。しかし問題は、予定どおりに完成するか否かではない。

今回のプロジェクトでは、総費用のうち800億円が開発費としてメーカーに割り当てられる。NECが使った費用は明らかでないが、撤退によってムダ金となったことは間違いない。文科省は「設計したCPUは、今後の事業で役立ててくれればいい」と言うが、開発費は国から拠出されている。さらに建設中の研究施設も、大幅な設計変更は不可能。ケーブル数が4倍に増えるなど、追加費用が発生する可能性もある。

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