オリエンタルラジオが気になって仕方がない 新ネタはお笑いなのか?それとも音楽か?

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そういう観点で考えてみると、『PERFECT HUMAN』では、この2人のそれぞれの個性が見事に生かされていることがわかります。歌詞の中で、藤森さんはひたすら中田さんを持ち上げまくります。そして、中田さんは自信満々に「I'm a perfect human.」とつぶやき、自らをパーフェクトな人間だと断言してみせるのです。この歌詞で描かれた2人の関係性は、決して作られたキャラではなく、彼らの中にもともとある要素を表現したものだったのです。だからこそ、それが揺るぎない説得力を持ち、多くの人の心をとらえたのでしょう。

カリスマ的な魅力と卓越したプロデュース能力

振り返ってみると、オリラジの出世作となった『武勇伝』のネタも同じ構造になっていることがわかります。中田さんが自分の武勇伝を次々に披露して、それを引き立て役の藤森さんが「あっちゃんかっこいい!」「すごいよ、すごすぎるよ!」とひたすら褒めたたえる。『武勇伝』のネタは爆発的に流行して、彼らの出世作となりました。オリラジの2人は、デビュー当初から自分たちのキャラをよくわきまえていました。特に、ネタ作りを担当する中田さんは、戦略的な思考でオリラジというコンビをセルフプロデュースしているのです。

個人的な印象ですが、中田さんのこれまでの歩みを見ていると、アップル創業者のスティーブ・ジョブズと重なるところがある気がします。プレゼンが得意で、毀誉褒貶が激しい傲慢な独善家。しかし、カリスマ的な魅力と卓越したプロデュース能力があり、数々の独創的なヒット商品を生み出して世の中を騒がせる。この『PERFECT HUMAN』がお笑いか、音楽かという論争を呼んでいること自体が、オリラジが独自の道を歩んでいることを示しています。

それは、ジョブズの手によって、iPod、iPhone、iPadといった斬新なコンセプトの製品が作られていったのと同じです。お笑いでもなく音楽でもない、まったく新しい形のパフォーマンス。それは、時代を先取りしているからこそ、賛否両論を巻き起こしながらも、唯一無二のブランドとして価値を持つことになるのです。

お笑いの世界は、いまだに旧態依然とした徒弟制度や厳しい上下関係に縛られている一面があります。その中でオリラジは、下積みゼロでテレビの世界に出てきたという特殊な経歴を生かして、独自路線の活動を続けています。彼らは「お笑い界のスティーブ・ジョブズ」として、これからも常識に縛られず新製品の開発に取り組んでいくことでしょう。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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