留学経験が「キャリア自律型人財」を育てる 東洋大学
豊田 生きた現場の中で、試行錯誤しながらPDCAサイクルを回す経験は大切ですね。環境適応性の高い人は、アルバイト等も含めて、そうした経験を積んでいることがインタビュー調査でもわかります。また、自分なりに社会を見て、課題を考えることも重要です。それを抜きにしては、自分のやりたいことを見つけられずキャリア自律は進みません。特に、日本のように成熟した国では社会的な課題を感じにくくなっていますので、社員を途上国・新興国のNPO法人に派遣し、本業のスキルや経験を活かして現地の社会的課題に挑む「留職」プログラムを活用する企業も現れています。
芦沢 東洋大学の国際地域学部でも、1年次に多くの学生がアジアの途上国・新興国でフィールドワークに参加しています。この経験は学生の目を開かせるうえで大きな効果があります。フィリピンで2週間の国際ボランティアに参加したある学生は、現地の子供たちが貧しい暮らしの中で英語を勉強する姿に感化され、帰国後に懸命に英語を勉強したことで、TOEICのスコアも入学時から比べると300点もアップさせました。また、大学入学前に引きこもりを経験したイブニングコースの学生も、フィリピンでのフィールドワークをきっかけに成長し、昨年にラオスではじめてとなる「かけ算九九のうた」を現地語で制作して教えるNPO活動を立ち上げ、文部科学大臣から表彰されるまでになっています。
豊田 日本の学生は、学びに対して受け身になりがちですが、自分が学ぼうという文脈を見つけられたことが大きいですね。留学先やキャンパスで、本当の現場に触れ、本気で関わることが将来につながるのだと思います。
芦沢 できるだけ多くの学生に留学をしてもらおうと、東洋大学では、多彩な留学プログラムを開発しています。たとえば、全学生を対象に、東南アジアへの短期海外研修「Diversity Voyage」を一般社団法人GiFTと提携して実施。語学力が不足している学生には、留学先で英語を学びながら正規科目も履修する「ブリッジプログラム」を提携校と協力、開発しています。また2017年の開設を構想しているグローバル・イノベーション学科※では、国際社会で先端的な役割を担うリーダー人財の育成を目指し、長期留学を義務化、留学生比率30%以上を目標に設定、講義も英語で行います。このキャリア自律が求められるリーダー人財の育成に加え、文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」に採択された「TOYO GLOBAL DIAMONDS」構想では、都市型総合大学という本学の特徴を踏まえ、学生全体のグローバル化を底上げすることで国際社会の中核を担える中堅人財の育成も目指しています。
豊田 留学経験の比率を高めることが、学習の成果を高めることと密接な関係があることは間違いないように思います。企業は、もっと大学での学びを評価する方向に進むべきで、そのためには、大学側がきちんと学習成果を示すことも大切でしょう。一部の企業では、厳しい指導をする特定のゼミを評価して、その所属学生を積極的に採用する動きも生まれています。小さな動きが蓄積され、社会変化をもたらす日を楽しみにしています。
芦沢 学習成果の可視化への取り組みとして、語学学習や研修などの成果を一元管理して、学生の動機付けや教員の指導に役立てるeポートフォリオシステムを導入しました。今後は、就職活動先の企業に学習成果を示す方法も模索していきます。また、大学が持つアイデンティティも大切にしたいと考えています。東洋大学創立者の井上円了は「余資なき者、余暇なき者にも学問の機会を与えよ」と考え現在の東洋大学でもお金がない人、時間がない人も学べるように、文系学部にイブニングコース(夜間部)を置いています。このイブニングコースも含めた全ての学生が参加できる国際教育プログラムを充実させ、世界を舞台に先端的な役割を担うグローバルリーダーから、国際社会の中核を担う中間層まで幅広くグローバル人財の育成を目指します。
※2017年度開設予定(設置構想中)。学部・学科名は仮称であり、計画内容は変更になる可能性があります。