全英オープンそれぞれの闘い

キャスター/小倉智昭

 296.5ヤードには驚かされた。全英オープンにおけるトム・ワトソンのドライバーの平均飛距離。しかもフェアウエイ・キープ率71%である。絶対ラフには打ち込まないように、強風の計算を加えてのコントロールショットだったはずだ。59歳のワトソンは、全盛期より距離を伸ばしたという。たとえ、クラブ性能がよくなったとはいえ、筋力トレーニングをはじめとする努力がなければ到達できなかった準優勝だ。

世界中のゴルフファンは140年ぶりの記録が生まれることを願っていた。全英の最年長優勝者は46歳である。一世紀半も昔のゴルフはレベルは低く、競技人口も少なかった。だから、ワトソンが近代ゴルフに金字塔を打ち立てるのが、どれほど困難であるのか。誰もがわかっていた。最終ホールの返しのパーパットが決まっていたら、ともに涙を流せただろう。だがロートルには4日間を戦い抜いたうえに、プレーオフに臨む余力は残っていなかった。3ホール目、深いブッシュにボールが消え、出そうと思ったセカンドはまるで飛ばなかった。あそこから涙でテレビ画面が見えなくなった。ダブルボギーで万事休す。午前3時半、多くの人々が私同様、号泣していたに違いない。

タイガー・ウッズの予選落ちもまたショックだった。全英の前に優勝するなど、決して調子は悪くなかったと思う。こんなことを言うとタイガーファンに笑われるかもしれないが、石川遼が影響を与えたと見るのは不謹慎か。まだ少年の遼君に、タイガーが目を奪われることはありえないと言われるだろう。ただ、試合前のタイガーの会見で遼君に触れたコメントと、初日3ストロークの後れをとった後のコメントは明らかに変わっていた。「アイアンの球は高い」なる褒め言葉は、風が強くなれば通用しないという皮肉である。まだ17歳の少年をタイガーが意識した証拠ではなかったのか。13番ホールから、タイガーは単独行動の遼君に近づき始め、会話も交わすようになった。ウェストウッドとしか話さなかった彼が、遼君を一人前と認めた瞬間だったように私には見えた。2日目、ターンベリーには強風が吹き荒れ、初日とは別のコースになった。しかし遼君は前半で1ストロークしか落とさなかった。果敢にドライバーで攻め、曲げながらもこらえる。タイガーは遼君のショットを前日よりも観察するようになっていた。

そして運命の10番ホール。左の海から強風が吹きつける難易度の高いホールだ。タイガーのティーショットは、ドソッポの右に飛び、ギャラリー総出で探しても見つからないロストボール。それを見た遼君は、明らかに「タイガーがなぜ」という表情を見せ、彼もまた奈落の底へ突き落とされていく。パーが拾えなくなった遼君に引きずられるように、タイガーの巻き返しはまったく見られず、悪夢の予選落ちとなったのである。これは私の考えすぎだろうか。

キャスター/小倉智昭(おぐら・ともあき)
1947年秋田県生まれ。東京12チャンネル(現テレビ東京)アナウンサー出身。76年フリーに。現在は『とくダネ!』(フジテレビ系)や『嵐の宿題くん』(NTV系)、『小倉智昭のラジオサーキット』(ニッポン放送)の司会を務めるなど、幅広く活躍中。
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