希29歳の春、遠くなった故郷に思いをはせる 10代で出会った僕らも、あと少しで30歳

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田舎は、皆結婚が早いですからね。28歳のとき、当時付き合っていた彼女の妊娠がわかり、覚悟を決めました。

東京で暮らす恋人に向かっての最後のメッセージは…

希は、僕にとっても特別な存在でした。彼女の中に勝算があって連絡してきたのだと思います。僕も独身だったら、同じように思うはずですから。

だからこそ、僕は、彼女に何と伝えればいいかわかりませんでした。

意を決して、結婚したことと、そして子供ができたことを希に伝えると、彼女はしばらく黙って、そして「おめでとう」と一言言って、電話を切りました。

もうあの時には戻れない

29歳。

ほんの数年前まで同じ量の未来を抱えていたのに、まだ独身で運命の相手にも出会っていない人がいる一方、ある人は結婚し、ある人はもう子供がいるなんて、不思議なものですね。

ずっと膨大な未来がある幼い子供の頃のままでいたいと願う一方で、立ち止まっても進んで行く歩く歩道のように、僕たちは、あっという間に押し出されてしまうのです。その思い出は、札幌の雪のように、少しずつ少しずつ積もって、いつしか、重く僕たちにのしかかっていきます。

彼女との思い出はとても楽しかったけれど、僕は、もうあの時には戻れない。希の助けになってあげたかったけど、彼女の人生には寄り添えません。大人になるにつれて、僕たちは、新しい大事なものを手にしたら、もうあとは両手でそれを大事に守っていくしかなくて、ずっと大好きだった特別な存在でさえ、手放さないといけないのです。

10代で出会った僕らも、あと少しで30歳。

恋人よ
君を忘れて変わっていく僕を許して。
毎日愉快に過ごす街角。
僕は僕は帰れない。

 

東京に行った恋人が故郷の恋人に歌う「木綿のハンカチーフ」は、皮肉なことに、東京で暮らす恋人に向かっての最後のメッセージでもありました。

(モデル:田口千晶)

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