(第8回)周囲の支援でストレスを和らげる

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●人には支援が必要である

 ここで次のことを考えてみてほしい。人間は元々群れで暮らす哺乳動物である。“いきなり何だ?”と思われるかもしれない。しかし大事なポイントなのだ。例えば、生き物として人間に近いとされる動物に猿がある。動物園のサル山を見たことがあるだろう。大きな群れを保ちながら暮らしているのが分かる。喧嘩や争いは耐えないし、時にはいじめもある。食べ物を年齢関係なく争奪している。しかし、小さいうちから同年齢なら親しく遊ぶし、ほとんどの場合、親子は共に過ごす。利害がないときにはおとなしく互いに親しむ。子どもは利害が衝突する中で上手く対応できるように育っていく。人間もつい最近まで同じように暮らしてきたはずだ。

 群れで暮らすにはつながりが必要である。哺乳動物にはそのため感情が備わっているといわれている。ストレスの本当の姿である感情は実は自分を守るだけでなく、つながりを維持し、自分の所属する群れ自体も守る。現代では言うまでもないが、人間社会では個々の人命が最優先される。しかし、我々の設計図である遺伝子はそれだけとは思っていない。遺伝子の複製を残していくこと、つまり群れを存続させることを第一の目的としているのだ。もしも個々の猿が別々に生きていこうとすると群れはなくなり、自然な環境ではそのような猿は滅んでいくだろう。人間の知能が発達し、高度な文明社会を形成しても、自分の意思でこの遺伝子を書き換えることはできない。

 人間が言語を操り、目の前の現象を論理的に分析し、対処するようになったのは生き物の歴史から言えば、ごく最近のことである。人間の知能は太古の時代から、生存する機能、感情の機能に追加して作り出された産物である。つまり思考で知的に解決しようとしながら、人間の脳の深いところでは、感情で他者とつながることを欲しているものなのだ。ストレスへの対処としての周囲のサポートというレベルより、もっと本質的に人間を元気づけるのは他者とのつながりなのである。
 核家族や独居は、群れで生きる人間の本性とは全く異質の、感情のつながる相手のない環境だと分かる。ストレスを感じる現代だからこそ、周囲の支援を得ることが重要なのである。

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