消費者金融専業会社シミュレーションにおけるムーディーズ想定の調整と今後のポイント 《ムーディーズの業界分析》


金融機関グループ
アナリスト 森村 直樹

 ムーディーズは、格付けを付与している消費者金融専業会社(アコム、プロミス、武富士、アイフル)が直面する規制環境の変化に伴う種々のリスクに関して、これまで主に利息返還損失のリスク要素を機軸として財務ストレスを計量し、2007年5月以降の一連のスペシャル・コメントでそれらの財務インパクトを検証している。このリスクシナリオにおいては、改正貸金業法の完全施行までの利息返還損失にかかるリスクと、総量規制の影響をも包含した追加的信用コストを併せた、リスクの塊に対する格付け先各社の引当金の十分性を検証し、このリスク量を前提とした財務インパクトをシミュレーションにて検証している。

これまでは格付け先各社が2007 年3 月期に積んだ引当金の十分性を確認し、その後のモニタリング期間においてもその十分性は確認してきた。しかしながら、利息返還請求の動向については、2007 年後半以降、高止まりの状態が継続している。

現実に発生した損失(現実損失) がムーディーズ想定リスク量の範囲内で推移しているという事実だけ見れば、前提としている対リスク量で見た引当金の十分性の結論は従前と変わらぬ結論が導き出される。しかしながら、1) 実務的な困難を考慮すれば格付け先各社の全てのポートフォリオが(改正貸金業法の) 完全施行までに18% 以下の金利帯のポートフォリオに入れ替わるわけではない点、2) 利息返還請求のうち完済案件の比重が高まっている傾向は将来的な請求の減少を示唆している一方で、完全施行後も利息返還請求自体の一定の継続も示唆している点、3) 弁護士や司法書士による請求キャンペーンは、少なくとも完全施行までは続くことが想定されうる点、4) 経済環境の悪化を要因として財務的に苦境に陥る債務者の数が今後増加し、請求自体も継続する可能性がある点、等から利息返還請求が一定期間継続することも懸念される。

ムーディーズは、このような懸念を考慮し、従前より想定していたリスク量について調整を行った。具体的には、改正貸金業法の完全施行後も1 ~ 2 年の利息返還請求の一定の継続性を想定し、従来想定していた完全施行までの期間よりも保守的に1.5 年分のリスク量の追加調整を行った。この追加調整の水準は、そもそものリスク想定が既にストレスを織り込んで計測されたものであり、これまでの実績は、そのリスク量の年換算値を下回り続けたことから、その残余のリスク量にも一定の余裕があることも考慮すれば、過度なストレスと見られるかもしれない。とはいえ、規制環境の激変に伴う、影響の不透明性や金融機関全般を取巻く環境の悪化等の現状を考慮すると、合理的な保守性であるとムーディーズは見ている。

ムーディーズは、今回の調整にあたって、シミュレーション上で想定していたその他の諸前提についてもいくつか見直しを行っている。リストラ効果については、従前のシミュレーションにおいては、完全施行までの期間はあえて織り込んでいなかったが、既に各社が実施し、発現したものについては今回の調整では織り込んでいる。また、通常の貸倒償却にかかる費用は、従前より多めに想定していたが、今回においてもその保守性は堅持する。更に、従前においては一定の与信実行を見込んでいたが、格付け先各社のこれまでの実績はムーディーズ想定よりも厳格に運営されていることから、これまでの各社の厳格なスタンスを考慮して保守的に修正した。

上述の諸前提の調整による格付け先の直接的な財務インパクトとしては、各社ともに従前ムーディーズが見ていた引当金による、リスクカバー率の低下が挙げられる。その低下幅は、各社の引当の水準や、その引当ポリシーの違いもあり、個々によって異なっている。また、与信スタンスも各社によって異なるが、その厳格化の水準が高い場合においては、トップライン収益の減少及び追加的な信用コストの高まりを通じてシミュレーション上の経営安定化のプロセスが、従前のそれよりも長期化することが懸念される。更に、ムーディーズは、利息返還請求の高止まり継続の懸念を反映してリスク量の調整を行っている。そのこと自体、経営安定化に向けたプロセスの長期化の否定し難いリスクが残っていることを示唆している。

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