「赴任先について来ない妻」と離婚できますか 正当な理由があれば、義務違反にならないが

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ただし、夫婦が別居している場合でも、「正当な理由」があれば、同居義務違反になりません。具体的にいうと、①「別居について夫婦が合意している場合」や、②「別居がやむを得ない場合(単身赴任や長期入院など)」です。①、②でもない「夫が妻に無断で自宅を出て、愛人と暮らし始めた」や、「妻が、結婚後も何らの理由もなく実家で生活をしつづける」などは、同居義務違反になると言えます。

これらは、民法に定められた5つの離婚理由の中の「悪意の遺棄」(正当な理由なく同居義務、協力義務、扶助義務を果たさない)にあたる可能性があります。その上で、虐待して追い出したなど、「社会通念上、倫理的な非難を受けて当然の行為」とまで言えて初めて「悪意」のある遺棄となります。

実際の裁判では、同居の有無だけでなく、婚姻期間や別居期間、別居に至った理由など、他の事情も踏まえて、総合的に判断されます。必ずしも「同居義務違反あり→離婚理由あり」とはなりません。

ご相談者の妻が単身赴任中の夫と同居しないのは、先述の②「別居がやむを得ない場合」に含まれ、「正当な理由」があります。

長期間続くようであれば、別の離婚事由に…

また、妻の「仕事を辞めたくない」という理由も、現在の日本では、夫と妻の仕事に優劣はなく、夫の転勤に従う義務はないと考えられます。妻には正当な理由があるといえますから、同居義務違反にも離婚理由にもあたらないと判断されるでしょう。

ただし、その状況がさらに長期間続くようであれば、別の離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断される可能性はあります。

「結婚生活の形」は多種多様です。しかし、自分が考える夫婦像や男女のあり方にこだわり、相手に押しつける人は少なくありません。離婚に至る大きな要因の一つなのでは、と多くの離婚事件を担当させていただく中で感じております。

結婚という枠組みに甘え、相手に自分の価値観を押しつけることなく、むしろ、油断していると離婚に至るかもしれないという一定の緊張感も持ちつつ、お互いの価値観や考え方を認め合えれば、たとえ別居をしていてもいい夫婦関係を保てるのではないでしょうか。

澤藤 亮介(さわふじ りょうすけ)弁護士
東京弁護士会所属。離婚、不倫問題、労働問題などを中心に取り扱う。iPad、iPhoneなどのデバイス好きが高じ、事務所内の事件資料や書籍の全面データ化等、ITをフル活用して業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。
事務所名:新宿キーウェスト法律事務所

 

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