【和地孝氏・講演】不確実性時代の成長戦略(中編)

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「不確実性時代の成長戦略」より
講師:テルモ株式会社 代表取締役会長 和地孝

前編からの続き)

●体質の壁から変えていかなければ本物の改革にはならない

▲連結業績推移
1992年から2007年の連結業績推移。和地氏の改革により1994年以降14期連続の増収を実現した
 当社の今までの業績を振り返ると、14期連続増収、利益も8期連続で過去最高を更新してきました。これだけを見ると非常に立派なように見えます。ただ、さすがに前期は、当社も売上の半分が海外ですので、あの急激な円高にやられました。それからもう一つは、医療機器は公定価格というものがベースになりますので、それを下げられて減収減益になりました。しかし、また今期復活するだろうと思います。
 しかし実は、1990年近くに3期連続の赤字を出した時期がございます。そこで一番怖かったのは、赤字になっても、社内で全く危機意識が無かったということ。誰も「これは危ない」と感じる人がいなかったのです。メインバンクも「テルモさん、そろそろちょっと危ないんじゃないの?」と言いましたし、メイン証券会社も「テルモは潰れますよね」と言われました。そんな状態でしたが、社内ではそういった危機意識が全く無かったということです。

 私は当時、銀行におりました。そこで会社を組織化したいという要請がありまして、テルモに移り、実質的に私が経営を引き継ぐことになったのが1993年です。行ってみたところ驚いたことに、問題が実に山積みでして、売上収支の壁から、商品開発の壁、財務の壁、海外展開の壁、体質の壁…ありとあらゆるところがデッドロックに当たっていたという感じです。そこでどこから始めようかということを考えました。銀行にいたせいもありまして、やはり企業風土が悪いと、どんなにいい戦略を考えても組織に浸透しないというのを知っておりましたので、やはり体質の壁から変えていかなきゃならないと決断したわけです。
 なぜこのようなことになったかといいますと、当時25年間、1人の社長が経営しておりました。25年間もワンマンを貫きますと誰も意見を言わなくなります。言われたことだけをやり、リスクは絶対とらないという風土になるわけです。言ってみれば全社員が指示待ち体質の塊になったわけですね。そういうことが、前述したような五つの壁になって最終的には3期連続の赤字となったわけです。

 よく周りの人から言われるのですが、「企業の改革の中で、体質から入っていくのが一番手間ひまかかる」と。そうですよね。財務バランスを直すのは、そんなに難しくありません。要するに社員を切って人件費を少なくするなど、テクニカルにやればそう時間はかからない。しかし、体質を変えていこうという、言ってみれば風邪をひいたときに体全体を強くしようという発想ですから、非常に時間がかかるわけです。しかし、私はそこからやらないと、本物の改革にならないだろうということで体質の壁に取り組みました。
 社長になってからも、私は社長室にはほとんどいませんでした。外に出て4200人ぐらいの国内の全社員と向き合って話をいたしました。これは体力勝負ですが、社長が社長室にこもって役員に指示をする。役員が部長に指示する。部長が課長に指示する。課長が下に指示する……こうなると伝言ゲームですから、どんどんブレていくのですね。私みたいに今までの考え方をガラッと変える改革を実現するには、直接話法しかありません。従っていつも外に出て、みんなと話をするということになりました。
 誤解の無いように言いますが、私はワンマン経営が駄目だとは思っておりません。企業の成長過程では、むしろワンマン経営の方がリーダーシップを強く持つことができますし、あるいは後継者の問題などもいろいろとあるでしょう。しかし一番危険なのは、企業が100億、1000億、2000億、3000億と成長するにしたがって、企業を取り巻く環境がどんどん変わっているにもかかわらず、ワンマン経営ではそれに気付かない。周りの誰も意見を言いませんからね。こういうことで、やはりワンマン経営の悪弊が出てしまうということです。
 皆さんご存知のように、ダーウィンは「生き残る種というのは、強い種でもなければ、賢い種でもない。変化に対応できる種だけが生き残る」と言っております。企業もその通りでして、取り巻く環境がどんどん変化しているのに、やっていることは同じ。これが一番怖いことになります。
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