GDP統計を使った怪しい議論に要注意 無形資産を反映せず指標としては不完全

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このところのGDP成長率が落ちてきているのは、なにも政策が間違っているせいばかりではない。先日も2015年10-12月期GDPが発表されたが、前期比年率マイナス1.4%とまたまたマイナス成長になってしまった。具体的に何がどう悪かったか、細かな話をする気にもなれない。単に日本経済の高齢化が進んでいるために、潜在成長力が非常に低下しているということであろう。

日銀の試算によれば、今の潜在成長力は0から0.5%の間くらいであるらしい。これではほぼ確率2分の1でマイナス成長になってしまう。なおかつ、高齢化は今後も進行していくから、ここまで来ると、「マイナス成長が2四半期連続になるとリセッション」という現在の定義は、見直した方がいいように思えてくる。

GNIのほうがベンチマークにふさわしい

これは以前からの筆者の持論だが、少なくとも投資のベンチマークとしては、GDPに第1次所得収支を加えたGNI(国民総所得)を使うべきだろう。その方がグローバル化を反映した結果になるし、日本経済も少しは右肩上がりに見えるからである。

ところで安倍内閣は、このGDPを600兆円にするという目標を掲げている。名目GDPは昨年10-12月期で499.4兆円である。これを2020年くらいまでに2割増しにするというのだから、かなり大胆な目標と言っていいだろう。で、果たしてできるのだろうか。

ここには若干のギミックがある。というのは本年12月になると、GDPの基準年が2005年から2010年に切り替えられる。それと同時に、GDPの作成方法も国際基準であるSNA93からSNA08に移行する。その際には、今までGDPとして計上されていなかった企業のR&D投資がカウントされるようになる。

アメリカやドイツがSNA08に移行した際には、GDPは4%程度増えたことが確認されている。おそらく日本も同程度に、GDPの数値が「ゲタを履く」ことになるだろう。ということは、600兆円という目標は皆が思っているほど遠くはない、ということになる。

あきれられるかもしれないが、今のGDP統計は非常に不完全なものである。たとえば、企業の設備投資は68兆円程度と推計されている。この中にはソフトウェア約9兆円も含まれているけれども、その大部分は建物、機械、設備などの有形固定資産、つまり「目に見えるもの」が中心である。

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