「タイタニック解散」に追いこまれた自民党 いかせるか、失敗の教訓

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「タイタニック解散」に追いこまれた自民党 いかせるか、失敗の教訓

塩田潮

 解散の命名を聞かれた取材に「タイタニック解散」と答えた。
 自民党は不沈神話崩壊で「沈む巨艦」が現実となり、司令塔不在で操舵不能、沈没直前の大混乱はタイタニック号とそっくりである。総選挙はいまのペースだと自民党の敗色濃厚だが、総選挙前に過半数を握る党が選挙で野党転落となれば、明治以来、初めての出来事である。そのとき、「タイタニック・自民党」は海底の藻屑となるのか、蘇生して再浮上するのか。仮に民主党政権となっても、日本の政党政治と議会制民主主義の将来にとって重要なポイントである。

 一度、民主党政権をと願う人でも、自民党の四分五裂、雲散霧消を期待する人は少ない。もし下野となっても、2大政党政治の一方の担い手として存続してほしいと多くの国民は望んでいる。そのためには「ニュー自民党」への脱皮が不可欠だ。どうすればいいか。

 まず「失敗の教訓」を生かす。"タイタニック"は、医師会や農協などの支持組織崩壊、人材枯渇、新選挙制度による派閥凋落、官僚依存と失敗などが原因だから、新しい支持基盤や人材の発掘・育成、派閥に代わる党運営機能の確立、官僚依存からの脱却を図る。
 もう一つは「振り子」の再活用だ。自民党は過去に危機に直面した際、党内の主流や本流から一気に反対側に政権軸を移動させて危機克服と党再生を図ってきた。一党支配、野党弱体、派閥健在の時代だから可能だったという言い分も否定できない。

 だが、国民の多様なニーズを幅広く汲み上げる包括政党として、左右にウイングを広げ、重層的なネットワークを誇る政党だったから、振り子が機能した。いまは動かすリーダーもいなければ、策も知恵もない。古時計の振り子は錆ついたまま動かなくなっている。
 実は民主党も同じ問題を抱える。民主党も包括政党を目指しているが、いざというときに始動するように、いまから振り子に油を注ぎ、磨きをかけておく必要がある。
(写真:梅谷秀司)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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