韓国で注目の「シニアインターン」とは何か ベテランの再就職の切り札になっている

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エンジン組み立て部署で働くイ・サンソプさん(57)は自営で食品関連資材の商売をしていたが、経営がうまくいかず整理。求職中にシニアインターンを知ったという。「これまで自営でやっていた人間が50代も後半になって会社勤めできるのかと、友人からずいぶんとうらやましがられた」と苦笑する。

イさんは職場で同年代が多いことをとても気に入っているという。若い社員と働けば、あれこれ気を遣うことも多い。その点、同年代が多ければ話も通じやすいし、一緒に気持ちも合わせて働きやすい。彼は「自営で商売をしていたときは毎日が戦場だったが、ようやく心穏やかに働くことができて幸せ」と言う。

こうしたシニアインターンになるためには、労使発展財団や大韓商工会議所などが運営する機関に申請しなければならない。書類と面接試験を受けて合格すれば、3カ月間インターンとして働いたあと、正社員(2年以上、無期契約)に転換できる。正社員へ転換される際は、給料の日払いか時給制かを選択することができる。インターン合格者は大韓商工会議所や能率協会などの教育機関で1日8時間の教育を必ず履修しなければならない。インターン期間中には毎月60万ウォン(約6万円)、正社員になって6カ月間は毎月65万ウォン(約6万5000円)が支給される。こうした支援金はインターンにではなく、企業に支給される。

もちろん、シニアインターンには口に出せない悩みも多いようだ。これまでの給与水準との落差や劣悪な労働条件から、社員との対立など事前に想像できない問題もある。仕事に就いたのはいいが景気が悪くなり、会社が倒産してしまうケースもある。

シニアが持つ知恵と経験を生かせ

特にシニアインターンにとって難しいのが、若い社員との微妙な対立だ。シニアインターンはインターンの身分で入社するものの正社員とは差がないと考えがちだが、若い社員は入社年次からすれば自分たちのほうが先輩と考える。雇用労働省関係者は、「シニアインターンの入社後の悩みのうちの一つは、若い社員との関係。社内でシニアインターンを新参者として扱い、すぐに職場環境になじむことが難しいこともある」と言う。

それでも、韓国社会にシニアインターンが必要な理由がある。韓国で広告代理店トップの第一企画で社長を務めたキム・ナクヒ氏は「若い社員は忌避しがちだがシニアインターンならうまくこなせる業務をきちんと分け、社員全体の2〜3%でもシニアインターンを採用するのはどうだろうか。経験や人格から生まれる心ある助言や、若い世代からは出にくい智恵は彼らは必ず持っているはずだから」と言う。

シニアインターンを高齢者に労働の機会を与えるとのみ考えるよりは、人生の先輩としての役割を果たせる機会と考えてみてはどうだろうか。

キム・ヒョンジュ 「ソウル新聞」記者
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