定年なしと年功序列の給料で世界一の技術 樹研工業社長・松浦元男氏④

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まつうら・もとお 樹研工業社長。1935年名古屋市生まれ。65年に樹研工業設立。独特の組織運営で技術開発に力を入れ、株式非上場ながら極小精密部品のトップメーカーに育て上げる。樹研工業の2009年5月期売上高は24億円、従業員は約100人。

樹研工業には定年がありません。社員の多くが生産現場で働く職人で、彼らは30代でも暴れん坊。一人前になるのは40歳ぐらいから。60歳になったら名人です。名人を辞めさせるなんて会社にとって大損害。だから元気でいるかぎり辞めさせません。68歳、69歳、みんな働いています。彼らが工場を管理しているから不良品が出ないのです。

 こういう年輩の社員がしっかり働いていると、社員の娘や息子が入社してくる。社員が世襲になっているのです。これがいい。親が子に技術を直接教えている。これ以上の信頼関係はないでしょう。

給料は単純明快に、年功序列で決めています。個人への評価はプラスもマイナスもありません。人事評価がなく、出勤簿もなく、残業は自己申告だから、総務の仕事も少ない。ウチの総務は1人です。

会社の中で競争するな

年功序列のいい点は、社員が将来に対して希望を持てるところです。60歳過ぎの社員が孫のかわいいときにたくさんの給料をもらい、子どもや孫にふんだんにお祝いをあげられる。だからウチのじいさん社員はみんなモテる。そういう姿を見ているから40歳代、50歳代の人も将来に不安なくいい仕事をしてくれます。もし若い人よりも給料の低い年輩の社員がいれば、その人は気持ちがいいはずがない。そういう人の多い職場では、若い人も将来に不安を感じてしまうでしょう。

個人評価をしないことは、仕事を教え合う風土につながっています。ウチの職場では仕事のできる人がほかの人によく仕事を教える。教えた人がみんなに尊敬されるから。先輩社員はもちろん、同じ年齢の社員もどうせ給料が一緒なら現場で尊敬されたいと、少しでも身に付けたものを教えようとします。結果的に教えるインセンティブが働いているのです。会社の中で競争するな、会社の中はチームワークを整え、よその会社をたたき潰せと言っています。

 こうしたチームワークで100万分の1グラムの歯車に次ぐ世界一の技術、「ナノ切削技術」に到達しました。成型金型の自由曲面を2~3ナノといった超精密な表面粗度で削る技術です(1ナノ=100万分の1ミリメートル)。眼内レンズやコンタクトレンズ、光通信技術デバイスなどへの応用が考えられます。

 会社にいちばん必要な「希望」と「安心」を実現する「定年なし」と「年功序列の給料」。今の時代に珍しいかもしれませんが、世界一の技術を生み出し続けるこれらの仕組みはこれからも継続していきます。

週刊東洋経済編集部
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