「青函トンネル」異常時の避難は大丈夫なのか 北海道新幹線の開業まで1カ月を切った!

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青函トンネルには、トンネル内に2カ所の「定点」と呼ばれる場所がある。これは、走行中の列車に万が一火災などが発生した場合、列車を停めて乗客の避難・誘導や、列車の消火活動を行うための施設で、かつては「吉岡海底駅」「竜飛海底駅」として見学者にも開放されていた場所だ。

火災などが発生した場合はトンネル外まで走り抜けるか、この「定点」に列車を停めて避難するのが基本だ。定点には地上に通じるケーブルカーが整備されており、乗客はこれで地上に避難するか、あるいは救援列車を待つことになる。この救援列車を柔軟に運転するために行われるのが「逆線走行」だ。

日本の鉄道は左側通行が基本だが、逆線走行では反対方向、つまり右側の線路を使って、通常とは逆の向きに走ることになる。通常の信号システムでは不可能だが、北海道新幹線には無線を使った「RS-ATC」と呼ばれる信号システムが通常のシステムと合わせて導入されており、こちらに切り替えれば逆走が可能になる。本州側、北海道側のどちらからでも必要に応じて救援列車を走らせることができるのだ。

海底下150mで救援列車に乗り換え

「JR北海道をご利用くださいましてありがとうございます…」。北海道新幹線の開業に合わせてデビューするH5系車両を使用した訓練列車は、午前1時に新青森駅を発車し、雪の降る暗闇を青函トンネルに向けて走り始めた。車掌のアナウンスも流れ、本来は新幹線の走らない時間帯であることを除けば、開業後の通常の列車のような雰囲気だ。

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火花と煙が発生した想定の列車から避難する乗客役の参加者ら

列車が青函トンネルに入ってしばらくすると「ただいま、車両の前側、8号車車外より、火花と煙が発生している模様です」との車掌のアナウンスが入った。JR北海道によると、青函トンネル内には複数の箇所に高温に対して反応する「火災検知装置」が設置してあり、通過する列車の温度を確認している。この装置が高温を検知すると、火災の可能性があるとして列車に知らせる仕組みだ。

乗客役のJR北海道社員35人は、車掌の「うしろ側5号車にご移動をお願いします」との言葉に促され、煙や火花が発生している想定の8号車から離れた5号車へ移動。吉岡定点に停車した列車から、車掌の誘導に従ってホームへと避難した。

列車が停車した「吉岡定点」は海底下約150mの深さ。気温は18度、湿度は90%でほぼ年中一定だという。吉岡定点では、地上の管制室からの「JR社員の指示に従い、落ち着いて行動してください」などの放送が鳴り響く中、救援列車が到着するまでの待機場所となる避難所へ移動。避難所にはトイレやベンチなどの設備があるほか、非常食の備蓄もあるという。

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トンネル内の避難所。座る場所やトイレが整備されており、随時地上からの案内放送も入る

今回の訓練では、避難列車が来るまでの所要時間は約40分。乗客役の社員や関係者らは、通常は上り列車が走る線路を下りの方向に逆走してきた救援列車に乗り移り、元々の目的地である新函館北斗駅へ。途中、木古内駅で「逆線走行」から通常の線路へ戻る際の手順などもトラブルなく、訓練は午前4時前に無事終了した。

参加した社員らの顔には真剣な表情が浮かび、時折通路をふさぐ報道陣に対しても、道を開けるよう厳しい声がかかるなど、万が一の際にも安全を守ろうとする意識の強さが感じられた。

だが、そのような雰囲気も感じられる一方で「訓練のための訓練」になっているのではないかとの疑念を抱かざるを得ない部分があったのも、また事実だ。

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