防災広告特集

実践的な危機管理、BCPの組み立て方、
を考える

東日本大震災から5年

東日本大震災から5年。この間、復興の取り組みの一方で、被災した状況の調査・研究が進み、いくつかの教訓も明らかになってきた。首都直下地震や南海トラフ地震への警戒が高まる中、われわれは、防災対策や危機管理、BCP(事業継続計画)をどう組み立てていくべきなのか。企業、自治体に対して、防災・危機管理に関する実践的なアドバイスを提供することで知られる防災システム研究所所長の山村武彦氏に聞いた。
防災システム研究所所長
山村 武彦
学生時代、新潟地震(1964年)でのボランティア活動を契機に防災アドバイザーを志す。以降、現場主義(真実と教訓は現場にあり)を掲げ、地震、津波、噴火、水害、竜巻、土砂災害、事故、事件等250カ所以上の現地調査を行う。現在、執筆、講演活動、マスコミ出演等を通じ防災・危機管理意識啓発に活躍中。 近著に『みんなの防災事典』(PHP研究所)(2015年5月)『新・人は皆「自分だけは死なない」と思っている』(宝島社)(2015年4月)など

認知心理バイアスの教訓を
防災対策に取り入れる

―― 今年3月で、東日本大震災の発生から5年になります。大規模災害に関するさまざまな調査・研究によって、新たな事実も浮かび上がっていますが、教訓として、どのような事象に注目されていますか。

山村 英国の心理学者が指摘していることですが、不意の災害、突発的なアクシデントに見舞われた場合の人の行動は、落ち着いて行動できる(10~15%)、取り乱す(15%)、呆然となる(70~75%)の三つに分かれると指摘されています。呆然となった後、比較的すぐにショックから覚める人もいれば、凍り付いたままの人もいるでしょう。これは、判断や行動を歪められてしまう認知心理バイアスの一種で「凍り付き症候群」と呼ばれています。

人間の脳は、とてつもなく大きな恐怖、経験したことのないような事象に直面した際、目の前の状況が飲み込めない、あるいは把握できないような状態に陥ることがあるとも言えるでしょう。「思うように体が動かない」「走って逃げているつもりなのに、実際はゆっくりと歩いている」……。突発的なアクシデントに直面すると、人は適切な対応ができなくなるケースが報告されているのです。

認知心理バイアスには、ほかにも、異常事態が起きているのに、「自分は大丈夫」「まだ正常な状態だ」と思い込もうとする正常性バイアスが知られています。これは、私たち自身にも当てはまるのではないでしょうか。多くの人が「いつかは大きな地震が来ると思っているが、今日起こるとは思わない。まだ先のことだろう」と根拠なく思い込んでいることが少なくありません。「昨日、大丈夫だったから今日も大丈夫」と信じてしまう。防災については「備えあれば憂いなし」とよく言われますが、「憂いが迫らなければ備えられない」のが人の性質なのです。本当に機能する危機管理、防災対策、BCP(事業継続計画)にするには、こうした心理的な要素を考慮していく必要があると思います。

命を守る対応を優先
緊急連絡体制の整備を

―― では、防災対策、BCPを構築する際のポイントはどこにあるのでしょうか。

山村 まず、防災対策、BCPの優先順位を明確にしていくべきではないでしょうか。優先順位は、結果の重大性に鑑みて決定します。失ってしまうと取り返しのつかない結果に対する備えということであれば、最優先事項は人の命を守ること以外にはないでしょう。しかし、命を守ることを本当に意識した防災訓練はどの程度行われているのでしょうか。たとえば、部署ごとに災害時の消火係を決める、あるいは初期消火の訓練をする。ですが、大切なのは火を出さないようにすることです。どのような行動をとれば命を守ることができるのか、そのような意識から実践的な仕組みを考え、訓練を繰り返していく必要があるでしょう。ここでも、重要なのは人間の心なのです。

一方、家族を守るという視点も重要です。帰宅困難者の問題がクローズアップされましたが、今後も大きな災害に見舞われた際、自宅に帰れない状況が予想されます。自宅にいる家族も停電などの状況下で数日間を過ごさなくてはならないことがありえます。そのための対策が欠かせません。耐震などの備えはもとより、食料や水の備蓄は十分なのか、たとえば電気や水道などが機能しない中でトイレはどうするかなど、自宅での避難訓練をすることで必要なポイントが見えてくるでしょう。

―― 命を守ることのほかに、どのようなポイントがあるでしょうか。

山村 防災マニュアルで、最初に情報収集するように定めている組織は多いと思いますが、通信手段の途絶まで想定しているケースは少ないようです。大震災発生後は、会社間の電話、ファクシミリ、メールなどの通信手段は機能しなくなることを想定しておくべきです。そこで、私が勧めているのは、個人携帯電話やメールによる、取引先等のキーマンとの連絡体制の整備です。

たとえば、主要顧客、仕入れ先、社員関係者らキーマン個人の携帯電話への連絡先リストを作成し、複数のメンバーがキーマンに分担して連絡する緊急連絡隊を組織するのです。連絡する時に肝心なことは、大規模な震災が発生するケースですと30分を過ぎると、通信回線が混み合って非常につながりにくくなるので、その前に最初の発信をすることが重要な意味を持つのです。

そして、広域連携もポイントになると考えています。サプライチェーンを維持するために大規模災害時にはライバルも巻き込んだ連携も選択肢に入れるなど、広い視野からBCPを考え直すことも一つのポイントとなるでしょう。

具体的に何をするかが
実践的なBCPのカギ

―― BCPを絵に描いた餅にせず、きちんと機能する実践的な内容にするためには、何が大切でしょうか。

山村 想定外というフレーズがはやりましたが、想定外が、想定できたのにしなかった場合の言い訳になっていないでしょうか。

企業を対象としたアンケートでは、主要業務を停止させる原因のトップとして停電が挙げられていますが、小型発電機を備える対策を講じているのであれば、石油系燃料の入手困難を織り込んで計画を構築するべきでしょう。そうしたことを予想してはじめて機能するBCPになるのです。

たとえば、停電対策をするなら、コンピュータや照明など、停電すると困る機器のバックアップ、リカバリーについての優先順位と、手段を決めておく必要があります。ただ、必要な対策は、時間の経過とともに刻々と変化するので、計画どおりには進まないということも念頭に置いておくべきです。まさに、復旧のプロセスは生き物そのものという認識が必要です。

さまざまなリスクや事態を想定をした結果、ある領域のリスク対策を割愛するという選択もありえるでしょう。事業継続のために、どこまでのコスト、リスク、時間をかけることが許され、どこからが許されないのか、という許容限界を見極めることも大切です。