新聞社は「ソニーの失敗」を笑っていられない 「サイロ化」が成功した組織を蝕んでいく

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――そこを解決するのは、フィナンシャル・タイムズの3原則のような考え方かもしれませんね。専門バカにならず、常にクルマを買ってくれる人の視点に立つ。メアリー・バーラさんもそうですし、今の豊田章男さんもそうですが根っからクルマが好きですよね。トップの役割は自分の売るクルマへの愛を語ることかもしれません。それだけでも、かなりカルチャーが変わってくるのではないでしょうか。

それも重要ですが、今の自動車業界の問題は、そこだけじゃないと思います。というのは、ちょうど15年前のソニーが、今の自動車業界と同じ環境だったと思うのです。ソニーは当時、会社の外でソフトウェア、ハードウェア、コンテンツがどんどんと収斂していったのに、それに全く気づかず見過ごした。例えば、iPodはソフトウェア、ハードウェア、音楽を全部収斂させたものです。そういったことが起こっているのに、ソニーの中では各部門がサイロになっており、全然気づいていなかった。コンピュータをやっている人、エレクトロニクスをやっている人、音楽をやっている人とのあいだで全くコミュニケーションがなかったのです。

自動車業界をみると、今でも「鉄の板を曲げて作るのが自動車だ」という考え方を持っている人が多い。ところが、自動車は、そういうものではない。ITと製造業と環境問題と都市計画がすべて収斂した先に本当の自動車があるのです。

このことに自動車メーカーは気づいていない。製造部門、IT部門、法務部門、環境部門、マーケティング部門、CSR部門などが全然バラバラになっている。そんなことをやっていると、ソニーを突然アップルが打ち負かしたように、新たに生まれた自動車会社が、大手をやっつける日が来る可能性があるわけです。

メディアもまったく同じです。今、新聞社は普通の紙の新聞、デジタル、動画などの部門が分かれていると思います。読む側にとっては、それがどんどんとミックスしてきて収斂してきているのにもかかわらず、です。

経営陣に求められることとは?

――リアルな顧客の姿を知ること、幅広く技術の流れをみることがマネジメントに求められますね。

まず、経営陣がやるべきことは、ちゃんと脳を使って社会のパターンを見るということです。それから人間が持っている文化ルールをもう1回見てみることが重要です。人間は、ずっと昔から続いてきた文化ルールを心の奥底に持っているのですが、普通に暮らしているとそのことに気づきません(注:テット氏は1993年にFTに入社する前は文化人類学者だった)。

2000年のソニーにおいて、中間管理職の人たちは、ソフトウェア、ハードウェア、音楽が別々の部門で牛耳られていることをまったく疑問に感じなかった。理由は、「ずっとそうだった」からです。人間は、ずっとそうだったことに疑問を感じないのです。

だから、重要なことは徹底的に考えることです。これまで考えなかったような範囲まで考えなければいけない。考える、考える、考える、ということが重要です。

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