「お散歩番組」人気の秘密は、どこにあるのか テレビは「ハレ」のメディアではなくなった

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一方、人の魅力が占める部分も大きい。お店の人、買い物をする人、学校や会社帰りの人、さらには犬を散歩させている人など街中で出会うさまざまな人たちとの交流がお散歩番組にはある。そこでの会話は、多くが世間話のようなとりとめのないものだ。

だが、そうした何気ないやりとりのなかに、その人の飾らない素顔や個性が見える。お散歩番組には、そんな普段着の人の魅力を浮かび上がらせるコミュニケーションの楽しさがある。そうしたコミュニケーションに長けたお笑い芸人がメインのお散歩番組が多いのも、そのあたりに理由があるのだろう。

お散歩番組の系譜――関西から全国へ

ここでお散歩番組の系譜をたどってみよう。

お散歩番組には、ドラマやドキュメンタリーなどのように比較的わかりやすい定義があるわけではない。だが出演者が街をただぶらぶら歩くという点に注目すれば、1980年代に関西ローカルで放送されていた「夜はクネクネ」(毎日放送)に思い当たる。

「夜はクネクネ」の放送開始は1983年。フォークグループ・あのねのねの原田伸郎と毎日放送のアナウンサー・角淳一が夜の街に出かけ、そこで偶然出会った人々と交流する。すべては行き当たりばったりで、目的は決まっていない。まさに現在のお散歩番組のひとつの原点がそこにあると言ってよい。

この番組の場合、街の魅力か人の魅力かという点で言えば、中心は後者にある。芸人顔負けの原田と角の話術が素人の魅力を引き出す。また素人の側も関西ならではのノリのよさで応酬する。最近の言い方で言えば、「キャラが立った」人々が続々登場する。その面白さは、80年代前半のテレビではきわめて新鮮なものだった。

そうした関西特有とも言えるお笑い的コミュニケーションは、同じ頃起こっていたマンザイブームをきっかけに全国へと浸透していったと考えられる。そこで一躍スターになったザ・ぼんち、島田紳助・松本竜介など、マンザイブームには吉本ブームの側面があった。それらのコンビが繰り広げたボケとツッコミを基調にした笑いのコミュニケーションは、テレビを通じて全国に広まった。それによって、関西でしか成立し得なかった「夜はクネクネ」のようなロケ番組が、他の地域でも成立するような土壌が育まれていったのではないだろうか。

もう一方で、街の魅力を伝えるような番組は、それとは別の系譜として存在した。

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