いまダイバーシティ経営にどう取り組むか--谷本寛治・一橋大学大学院商学研究科教授

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 次のポイントは、ではどのように考えていかなければならないかということですけれども、まさにそこで組織のイノベーションが求められるわけです。制度をつくることがイノベーションなのではない。それを実際に動かしていくために不可欠なのが、全社レベルでのイノベーティブな取り組みだと思うのです。

まず基本的なところとして、経営理念がいかにそこに位置づけられているか。広くとらえれば、長年会社の中で持ってこられた経営理念に「人を活かす」という言葉があるかもしれませんし、そういう言葉を掲げておられる会社さまは少なくないと思います。ただ、もう一歩踏み込んで、現下のこの経営環境の中にあって、多様性を持った発想や価値観を具体的にどう取り込んでいくのかという意味での経営理念というものをもう一度見直す、あるいはもう少しかみ砕いてブレークダウンするという作業が必要です。

そのうえで、CSRと同様に、トップのコミットメントがやはり重要な問題になってくると思います。ダイバーシティ経営あるいはCSR経営ということを推進する戦略的な視点がまさにトップ自らの言葉で語られて、「これは本気で取り組んでいくのだ。経営のベースになるのだ」ということを、しっかりとした姿勢を強いリーダーシップをもって示されなければ、決して社内に浸透するものにはならないのです。中長期的な視点を持つことを具体的に指示せずに、あるいは権限なり予算なりを明確にせずに、とにかく進めろというようなことでは、現場は到底対応し切れない。実際そういうふうなかたちで指示だけされて、しかし現場にはなかなか、似たような活動がこれまであると、新しい部署ができても、何をやっていっていいかわからない。下手すると、既存のこの組織とこの組織の間の落ちているところの問題だけを、ニッチを探るような作業をされたりとか、既存の組織との調整のところだけにすごく時間と労力を使われて、本来やるべき仕事になかなか取り組めないというようなことをお聞きすることがあります。ですから、まずは経営理念ということを申しましたけれども、二つ目にトップの明確な指示がなければこれは動きにくいという話であります。

そして三つ目は、まさに働き方、仕事のあり方、あるいは評価の仕方、ここをきちんと見直していく。こうした見直しを行うことなく新しい制度を導入するだけでは、これは機能しないし、逆に混乱を招く。よく、制度はつくったけれども、なかなか浸透しないということがしばしばありますが、それは制度を利用できないようになってしまっているわけです。さまざまな制度的な支援や調整、限られた資源の投入といったことを実施しなければ、つくり上げた仕組みは実際には機能しないということを私も実感しております。

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