欧米型・カジノ資本主義の限界が見えてきた みんなを幸せにする「公益資本主義」のすすめ

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原 丈人(はら・じょうじ):1952年大阪生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、考古学研究を志し中央アメリカへ渡る。スタンフォード大学経営学大学院、国連フェローを経て同大学工学部大学院を修了。29歳で創業した光ファイバーのディスプレイメーカーを皮切りに、ICTやバイオサイエンス分野で新技術を創出する企業の育成と経営に注力。ボーランドをはじめ十数社を成功に導き、90年代にはシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストのひとりとなった。デフタパートナーズ グループ会長、アライアンス・フォーラム財団(国連経済社会理事会特別諮問会議機関)代表理事、公益財団法人原総合知的通信システム基金評議会会長を務めるほか、内閣府本府参与(現)、経済財政諮問会議専門調査会会長代理(現)、国連政府間機関特命全権大使、米国共和党ビジネス・アドバイザリー・カウンシル名誉共同議長、ザンビア共和国大統領顧問、日本国首相諮問機関の政府税制調査会特別委員、財務省参与などを歴任。最近書に『増補版 21世紀の国富論』(平凡社)がある

:顕著な例をお話しします。2008年にアメリカン航空は、航空産業の不況により、経営破たんの危機に直面していました。経営陣は、会社存続のためにと社員に総額約400億円の給与削減を要請し、従業員は事情を理解してそれを受け入れました。ここまでは誰でも理解できる話です。しかし、その結果、経営陣に約240億円に相当する株式ボーナスが支給されたのです。

大久保:それは一体、どういうことなのでしょうか。

:どのような理由があったとしても、経営破たんの危機に直面しているのは、少なからず経営陣の責任ですよね。従業員の給与が削減されるのであれば、経営陣の給与はそれ以上に削減されるべきだと考えるのが普通だと思いますし、日本人であれば誰しもそう思うでしょう。でも、米国の資本主義の常識は違うのです。

大久保:それはいくら何でもおかしい。日本だったら、総退陣か全額返上ですよ。

:そうですよね。でも米国では、報道こそされませんが、このような事例は日常茶飯事なのです。アメリカン航空の例はあまりにもインパクトが大きかったので、報道されました。

私はこうした状況に大変憤りを感じて、あちこちで批判をしたところ、逆に私のほうが批判されてしまいました。社会主義者か?と言われたことさえあります。

とにかく株主還元が最優先

大久保:それはどうしてですか?

:それは、「会社は株主のもの」といった考え方を持っているからです。株主から見れば、経営陣が会社の費用である従業員の給与を400億円も削減し、かつ毎年支払わなければならない給与は将来の負債ですから、それらを削減したことで企業価値を上げたことになるのです。ですから、240億円くらいボーナスとして支払うのは当たり前じゃないか、というのです。

大久保:おかしいですよ。価値観がまったく理解できない。

:最近日本でもコーポレートガバナンス・コードなどが導入されていますが、コーポレートガバナンス(企業統治)の番人である社外取締役は、こうした事例について議論はしても最終的に「ガバナンス上、まったく問題がない」と言うのです。こんなコーポレートガバナンス、おかしいと思いませんか。

大久保:株主だけを見て行われている経営なんて、あまりにも歪ですね。社員や顧客、取引先にまったく価値を見出していないということでしょうか。

:本来であれば社外取締役は、会社の利益が株主だけに配分されている歪んだ経営に警鐘を鳴らすべきだと思いますが、米国では株主利益を優先する経営が正しいガバナンスであると捉えられているのです。

もう1つ顕著な例をお話ししましょう。例えば税引後利益が1000億円ある会社があったとします。その会社が株主に対する配当と自社株買いに1680億円を投じている。つまり、内部留保を取り崩すか外部からの借入によって680億円を調達し、株主配当と自社株買いを行っているということになります。税引後利益に対する株主還元率は168%。実際あるんですよ、ヒューレット・パッカードです。

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