日本はスペイン無敵艦隊の「二の舞」になる 元国税調査官が分析する「消費増税」のリスク

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それにもかかわらず、中世ヨーロッパの国王たちは戦争に明け暮れていました。戦争には莫大なおカネがかかりますが、どう調達したのかといえば、戦費の大半は国王が負担していました。戦争時に特別に税を課すこともありましたが、貴族・諸候からの反発もあるため、そうそうできるものではありません。だから、国王の財政はいつも火の車だったわけです。

国家も、国民も同時に貧しくなる理由

フランス革命前、そもそもフランスの国民生活は「タイユ税」に苦しめられていました。タイユ税とは、土地税と財産税の性質を持つ税制で、イギリスとの100年戦争(1337~1453年)のときに設けられたものです。戦争中の特別税だったものが、戦争終了後も廃止されず、フランスの主要な財源となっていたのです。

このタイユ税は、貴族や僧職、官僚などは免除されていました。そのため、免税特権を持つ貴族たちは、ますます富み、農民や庶民たちはどんどん貧しくなっていく、という状況だったのです。当時のフランスでは3%の貴族が、90%の富を独占していたともいわれます。

フランス国王はというと、たびたびデフォルトを起こしていたために、もうそれ以上借金もできない状態でした。しかも、七年戦争(ヨーロッパ諸国間で行われた戦争:1756~1763年)とアメリカ独立戦争支援などの戦費により、フランスの借金はすでに30億リーブルに達していました。フランスは「信用」がないため借金の利子は5~6%と高く、利子だけで2億リーブル近くになります。当時のフランスの国家収入が2億6000万リーブル程度だったので、歳入の半分以上が、利子の支払いに充てられる、という状態だったのです。

時の国王ルイ16世は国家財政を立て直すために、1777年、スイスの銀行家ジャック・ネッケルを財務長官に抜擢しました。

ネッケルは国家財政立て直しのために抜本的な改革に乗り出します。フランスの貴族や特権階級の者たちが猛反発しましたが、ネッケルのほうも強力な対抗策を取ります。なんとフランスの国家の歳入と歳出の内容を市民に公表したのです。

これは世界史上ほぼ初めてのことだとされています。それまで国家財政というのは、秘密のベールに包まれているものでした。現在でこそ、国の財政は国民や世界に向けて公表されるのが常識となっていますが、近代以前の国家は財政内容を公表することは決してなかったのです。

フランスの国家財政の収支計算書を見て、国民は激怒します。国家歳入2億6000万リーブル、そのうち王家の支出に2500万リーブルもが費やされていたのです。国民の年収が100リーブル前後だったので、2500万リーブルというのは、庶民からは想像もつかないほどの金額でした。

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