議院内閣制で目立つ機能不全 直接民主主義も試練に直面

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議院内閣制で目立つ機能不全 直接民主主義も試練に直面

塩田潮

 総選挙を控えて、東国原宮崎県知事と橋下大阪府知事が派手に動いている。「はしゃぎすぎ」とタレント知事のパフォーマンスを批判する声も強い。だが、中央省庁の根強い抵抗で阻まれている地方分権改革のための総選挙活用という作戦なら、拍手を送りたい。

 小泉政権時代、「三位一体の改革」が叫ばれたが、竜頭蛇尾に終わった。小泉首相が熱心でなく、政策として優先順位が低かったのも原因の一つだったが、国民(住民)の側もこの問題について必ずしも意識も関心も高くなかった。古川佐賀県知事は「大雨の後の川の水位のようなもの。選挙前とか予算が組めないとか、地元の首長や国会議員の突き上げを食ったときに瞬間的に優先度が上がる。政権内でホットなイシューに浮揚させるのはむずかしい」と語っていたが、確かに壁は高い。だから、宮崎、大阪の両知事も人気者の自分たちが旗を振り、総選挙前に「水位」を上げようともくろんでいるのだろう。政党のマニフェストに分権改革のメニューを書き込ませるのが有効という計算も間違っていない。

 とはいえ、両知事の本当の狙いが気にかかる。
 とくに東国原氏は、「分権改革の旗手」をダシにして、国政進出どころか政権奪取という自身の野心を遂げるのが目的と見る人が多いが、的外れではない。若い橋下知事も将来的には「国政」が視野にあると見ていいだろう。野心や野望は政治家には必要なエネルギーだから、邪悪な私欲と極めつける気はないが、東国原知事のぶれまくる発言とトリックスターぶりを見ていると、逆に分権改革実現後、こんなリーダーに大きなパワーを委ねて大丈夫なのかと考え込む人もいるだろう。それが原因で、分権改革そのものに懐疑的になる国民が増大するのではと心配になる。

 議院内閣制の中央政界は与野党とも迷走に次ぐ迷走で、機能不全が目立つが、直接民主主義も試練に直面している。政権選択のこの機会に両面の同時再生に挑戦すべきである。
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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