希望学[1] 希望を語る 社会科学の新たな地平へ 東京大学社会科学研究所・玄田有史・宇野重規編 ~希望を社会科学し、そして社会科学をとらえ直す

希望学[1] 希望を語る 社会科学の新たな地平へ 東京大学社会科学研究所・玄田有史・宇野重規編 ~希望を社会科学し、そして社会科学をとらえ直す

評者 立命館大学教授 高橋伸彰

 希望学の研究拠点形成を目指し、本書の編者が中心となって文部科学省の大型補助金事業に申請したのは5年前だった。「少なからず自信をもって」いた申請は不採択に終わったが、東京大学社会科学研究所(以下、社研という)には、「諦めが悪い人種」が揃っていた。「希望は社会の問題じゃない。心理の問題だ」という不採択の理由に得心できない学者たちが、専門分野を超えて議論を重ね、社研独自のプロジェクトとして希望学を立ち上げたのだ。

ホームページの作成が活動の第一歩だった「『希望学』始めます」のコーナーには、失われた10年を過ぎても晴れない閉塞感の正体をめぐり、「景気が上向けば……自ずと消え去る類のものであるとは、到底思えません」「なぜなら、現代の社会には希望の喪失という闇が深く潜んでいて、それこそが閉塞感の根源にあることに、みんな気づいているからです」という当初の思いが綴られている。

「希望とは何だろうか」と問う本書の第�部で、執筆者のひとり広渡清吾氏は、「未来について望ましいものとして意欲された主観的表象」と定義する。そんな希望は編者の玄田有史氏によれば個人の心理を超えて社会的影響を受ける。もう一人の編者・宇野重規氏も希望は「社会的な諸要因とけっして無縁ではない」と述べる。「一人ひとりの希望は、他者に共有されることによって、言わば、社会的な希望となる」だけでなく、個人が希望を抱くことが可能な社会の構想にもつながるからだ。その意味で「個人の希望とは、背景にある社会関係が映し出される窓のようなもの」であり、心の窓を通して「社会的な次元を持つ」のである。

玄田・宇野の両氏は4年に及ぶ希望学の研究を「実に愉快」だったと回顧する。研究の成果は全4巻のシリーズで刊行中だが、第1巻の副題「社会科学の新たな地平へ」には、もう一つの不採択理由「希望は既存の学問分野によってカバーできる」への反論が込められているのかもしれない。「希望を社会科学する」ことから始まった希望学は、いつの間にか「社会科学を捉え直すことまでも射程に入れるようになった」。この問題意識は、編者からの依頼「希望について考えることで、社会に対するどのような新たな視点が得られるか」を真摯に受け止めた9人の執筆者にしっかりと共有され、見事に結晶している。

不採択という悔しい思いから始まった希望学は、日本の社会が失ってきた希望を再生できる唯一の学問である。今回のシリーズで終わらずに、社研は希望と社会の関係を切り開くために挑戦を続けてほしい。

とうきょうだいがく・しゃかいかがくけんきゅうじょ
1946年設立。日本と世界が社会科学的な解明を求めている重要問題を総合的に研究することを課題とする。
げんだ・ゆうじ
東京大学社会科学研究所教授。1964年生まれ。専門は労働経済学。著書に『仕事のなかの曖昧な不安 揺れる若年の現在』。
うの・しげき
東京大学社会科学研究所准教授。1967年生まれ。専門は政治思想史・政治哲学。著書に『トクヴィル 平等と不平等の理論家』。

東京大学出版会 3675円  295ページ

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