不況の時こそ経費を使う 樹研工業社長・松浦元男氏①

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まつうら・もとお 樹研工業社長。1935年名古屋市生まれ。60年愛知大学卒。地元のプラスチックの加工メーカーに就職した後、65年に樹研工業設立。独特の組織運営で、技術開発に力を入れ、株式非上場ながら極小精密部品のトップメーカーに育て上げる。

44年前、私が30歳のときに創業した、この樹研工業は、「採用は先着順」「定年制なし」「出勤簿なし」「残業は自己申告」「人事評価なし」「給料は完全年功序列」など、他社とはずいぶん違う仕組みをとっています。それでいて100万分の1グラムという世界最小の歯車を作る技術力を持ち、第一次石油危機のあった1974年5月期を除いて、ずっと黒字経営を続けてきました。昨年秋からの不況では、さすがに自動車・家電向けの売り上げが落ち込み、35年ぶりの赤字となりましたが。

 それでも100人いる従業員のリストラはいっさいしていません。そのうち24~25人がパートさんですが、全員雇い続けています。社員の残業カットや賃金カット、休日を増やすといったこともしていません。4月には定期昇給もしました。

経費節減も言っていません。むしろ「経費を使え」と言っています。営業の担当者には、「景気のいいときよりも今のほうが、効果があるぞ。今なら客先を訪ねてくる他社の営業が少ないから、どんな人にも会えるぞ」と言って、実際、彼らは全国を飛び回っています。

守りを固めることこそが最強の攻め

設備投資も進めています。5月下旬には金型工場に、最先端のマシニングセンターとCAD/CAMシステムを増設しました。金型の受注はいずれ必ず立ち直ってきます。そのときに対応できるよう、高速回転の機械と新たなシステムを導入し、受注から納入までの期間をほぼ半分に短縮しました。

社員教育も強化しています。CAD/CAMなどの新しい技術の説明会や講習会に、社員をどんどん出しています。仕事がない今こそ、勉強のチャンスだ、遠慮することはない、いろんなものを見てきなさいと言っています。

どうして赤字なのにこうしたことができるのか。それは今まで黒字経営を続け、おカネを貯めてきたからです。自己資本比率は50%を超えています。設備投資は全額自己資金で賄い、固定比率は100%以下。生産設備はほぼすべて自社で作り、他社にできない独自製品を生み出し、付加価値を高めてきました。2009年5月期は売上高24億円、最終損益は7000万円ほどの赤字でしたが、減価償却費が2億円あるのでキャッシュフローベースでは黒字です。資金繰りの不安がないのです。

要は景気のいいときに、どれだけ守りを固めたか、です。景気がいいからといって、攻撃に出る会社が多いが、それは間違い。守りを固めることこそが最強の攻めなのです。

週刊東洋経済編集部
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