空中浮遊する実質的最高権力 聞こえてきそうな霞が関の高笑い

空中浮遊する実質的最高権力 聞こえてきそうな霞が関の高笑い

塩田潮

 「権力の使い方を知らないねえ」と、引退した元大物政治家があきれ顔で首相を評した。
 与党内の「解散・人事」抗争は麻生首相と反麻生勢力の全面戦争となったが、首相側の完敗に終わった。最大の敗因は、首相が「名ばかりの権力者」だったこと、それが国民にばれてしまったことである。

 政治のウォッチを始めて30年余になるが、一番のポイントは「実質的最高権力」はいま誰の手にあるのかを探ることだといつも思っている。権力保持者は形の上では首相だが、麻生首相を見ていて、就任以来、この実質的権力を一度も掌握していないと映った。
 小派閥で、党内基盤が弱体という意味ではない。「陽気・強気・能天気」の首相は、おそらく実質的権力の未掌握に気づいていなかったのではないか。「解散は私が決める」が口癖だが、空威張りではなく、「裸の王様」の空言であろう。「権力の使い方を知らない」というよりも、そもそも権力を手にしていなかったのだ。

 それでは、実質的最高権力は誰が手にしているのか。
 霞が関の官僚機構か、最大派閥の町村派か、参議院を握る民主党か。いずれもノーだ。現在の日本の政治の危機と悲劇は、実質的最高権力が空中を浮遊している点にある。無権力状態がだらだらと続き、時間と予算が浪費されている。そんな危機的状況から脱するには、総選挙を実施して、正統性を具備する政権をつくり出すことだが、政権交代を唱える民主党も、もしこのまま自民党に取って代わって、相変わらず脇が甘く、ドジでお粗末な鳩山代表を権力者に据えると、同じように実質的最高権力を掌握できない「裸の王様」が生まれる危険性がある。

 その場合は「猛獣」復活で院政にと心配する向きもあるが、最大の懸念は、自民も民主もダメと政党政治を見限る国民が増大しそうな点だ。最後には「頼りになるのは政党より官僚」という空気になりかねない。霞が関の高笑いが聞こえてきそうだ。危ない危ない。
(写真:梅谷秀司)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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